「PER」や「PBR」を理由に株式売買をしてはいけない理由

「資産形成」について話題になることが増え、将来に備え投資の準備を始める人も増えています。

そこで、経済評論家・佐藤治彦( @SatoHaruhiko )氏の著書『素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書』(扶桑社)より、一部を抜粋・編集して投資において売り時・買い時の考え方を解説します。


最初の投資を成功させるために一番大切なこと

投資が成功するかどうかで大切なのは、買う時を間違わないことです。

株式でも不動産でも、間違った価格、つまり高値で買ってしまったあとは、どう損を少なくするかに翻弄され、後ろ向きのことばかりになってしまいます。

しかし、その買い時の判断は難しいものです。

そこでよく出てくるのが、ドルコスト平均法という、毎月一定額買い増ししていく投資手法です。これは前に説明しましたから割愛しますが、賢い投資手法とは思いません。

特に積み立て貯蓄をするように、毎月の決まった日に決まった金額を投資するとしておくと、これからしばらくはどんどん下がっていくだけの局面だからと、多くの人が投資を控える時にも、自動的に投資が行われてしまうのです。

もちろん、毎月購入するという契約を解除することもできるものですが、そんな投げやりな方法では市況のチェックもしなくなり、自動的に買いつけをする契約を解除するのも面倒になったりするものです。

どうしても毎月買いたいと思うのなら、毎月1回、自分で買いつければいいだけのことです。何でこんなお任せ手法が喧伝されるのでしょうか?

こういうと、「佐藤さん、でもドルコスト平均法を実践している人で成功している人が多くいるんでしょう」と反論してくる人がいます。

もちろんそうです。それは、ドルコスト平均法が正しかったのではなく、ただただ、この10年くらいは、何だかんだいって株式相場が右肩上がりで高くなってきたおかげです。それで資産を増やしただけです。

しかし、2021年くらいから始めた人はどんな思いをしているでしょうか?

2021年は1989年にバブル経済が崩壊したあと、初めて日経平均が3万円台を回復した年です。2月15日に30年ぶりに3万円台を回復し、最高値は9月14日の3万670円でした。

その後、再び新型コロナウイルスの蔓延、インフレに見舞われたアメリカの金融緩和政策の転換などから、株価は2022年3月には2万5000円台まで下がりました。年度末を迎えた時に、ドルコスト平均法で買ってきた人は、評価損を知って頭を抱えているのかもしれません。

目先はどんどん下がっていく相場だとわかった時には買わないほうがいいに決まってますし、これからどんどん上がっていくという時には株価が安いうちに一気に買っておいたほうがいいに決まってます。

投資で儲けるためにはどうすればいいか。安い時に買って、高い時に売る。これに決まってます。

しかし、安く買うのが意外と難しい。例えば、1日のうちでも高い時も安い時もある。1週間の間で上がったり下がったりもする。安いってどういうことでしょう?

早く儲けたい、早く買いたいと思っている人は、安い時に買ってくださいと言うと、ほんの少し下がったところで安かったからと買ってしまうのです。

投資は日経平均やTOPIX連動型のインデックスファンドで始める。それも安い時に買って始める。これが大切です。

私は本書で、投資を始めるときは300万円から500万円の投資資金を作ってくださいと申し上げました。その内の100万円程度で、安い時に、日経平均やTOPIX連動型のインデックスファンドを買ってもらいたいのです。

毎月買っていくドルコスト平均法での購入でないとしたら、株式投資をする多くの人は何を基準に買っているのでしょうか?

株式の売買を考える時に多くの人が参考にする、一般的に用いられる数値があります。次はその話をします。

PER、PBRは、あくまでも参考の数値。それを理由に売買してはいけない

株価や金利は経済のファンダメンタル、会社の業績などを反映するもの。中長期的にはそこから大きく逸脱しないなどと言う人がいます。

それを考慮してでしょうか、投資、特に株式投資をする時にはPERやPBRを用いて買い時かどうかを決める人がいます。

PERとはPrice Earnings Ratio、株価収益率のことです。株価が1株当たりの純利益の何倍で売買されているかを考えて投資尺度にする考え方です。

わかりにくいでしょうか? 例えば、100円する株式で、毎年10円の利益(儲け)を出している会社と、500円で50円の利益を出している会社、これはPERは同じです。この数字だとわかりやすいですが、例えば、1769円の株価で156円の利益を出している会社と、3260円で277円の利益を出している会社を比較するのは、計算機が要りますね。つまり、株価も利益もそれぞれの会社で違うので、株価に対して、利益が何倍あるのかを数値にしているというわけです。

これで、現在の株価が企業の利益水準と比べて割高か割安かを判断するわけです。もちろん、数値が低いほうが割安と判断されます。本当に多くの人が、この数値を大切にしていますし、投資信託なども売買の判断材料にも用いているので、私たちもどのくらいなのかを知っておくのは決して悪いことではありません。ですが、この1株当たりの純利益というのは、会社が発表する当期の利益予想の数字を使うのが一般的です。

しかし、今まで、この利益予想がどれだけ変更されてきたことでしょうか。

株式を買ったあとに利益の下方修正がされて、慌てても遅いです。逆に買ったあとに予想以上に利益が出る場合もあります。

また、PERが高くても売買されているということは、それだけ、ああ、この会社は将来はもっと伸びていくから割高なPERでも投資家は買っているのだ、ということも言えるわけです。PERが低くて割安に見えても、多くの人が、この会社はもっと利益が下がっていく、会社の将来性がないと思っていて買っていない。PERが割安であるのは、それだけ投資家が期待していないということの表れかもしれないのです。

ですから、PERが安い、高いと、それだけを材料に売買を決めるのはやめておくのが無難です。

しかし、一般投資家から巨大なファンドマネージャーまでPER、PERと口にします。ちなみに、PERが10倍以内であれば比較的安値圏にあると言われたりします。

はっきり申し上げます。こんな数値にあまり囚われていると決して儲けることはできません。PERが低いものを買い、PERが高いものを売っていれば儲かるのであれば、そんな簡単な投資はないのです。

投資をすれば、儲かるかもしれないし、大切なお金を損するかもしれない。だから買うかどうか迷う。しかし、金融関係者はとにかく買ってほしい。だから、PERは迷っている人の背中を押すための説得材料に用いられる数値なのだ、くらいに思っておくのが賢明です。

株式評論家や証券会社のセールスマンも、買ってほしい会社の株式がある時には、PERが低くて買い時ですよ、と言い、高い時には、PERが高くても買われる人気の株式で将来性が見込めて、買い時ですよと強調する。高くても低くても思惑一つでどちらも買い時のセールストークに使えるのです。こういうのを二枚舌と言うんでしょう。そして、こんなことを書くから私は証券会社から嫌われるんでしょうね(笑)。

それでは、PBRはどうでしょうか?

PBRはPrice Book-value Ratioのことで、株価純資産倍率と訳されます。株価が1株当たり純資産の何倍で売買されているか、すなわち1株当たりの純資産の何倍の値段が付けられているかを見る投資尺度のことです。

もう少しわかりやすく申し上げると、いまある会社をやめて会社のすべてを換金する。つまり、売っぱらったら(会社を解散すると言います)、1株当たりいくらになるだろう?それは、今の株価の何倍になるんだろう、という数字です。会社を解散する。会社の不動産や機械、特許、さまざまなものを売却してお金にして株主に分けたら?そういう数字です。

もしも、株価が1株1000円で、解散したら1株当たり2000円の価値がある会社であれば、割安だというわけです。常識的に考えれば、株価は少なくとも2倍になってもいい株式だとも言えます。一般的にはPBRが1倍以内なら安値圏にあると言われます。

現在の株価が企業の資産価値(解散価値)に対し割高か割安かを、この数値で判断するわけです。もちろん数値が低いほうが割安と判断されます。PBR=1倍なら、1株1000円で、解散してお金を分けることにしても1000円というわけです。

かつては、1倍を切ったら底値といわれたこともありました。しかし、この1倍を下回ったまま長い間低迷する銘柄もよくあることです。

PBRもPER同様にあまり当てにしないほうがいいと思います。

いろんな理由があるのですが、純資産といっても、それがすぐに市場価値と同じと断言できないことが最大の理由です。不動産の価値も、会社の特許も、ブランド名も、価値は日々変動します。売却したくても相手が納得しなければ安く買い叩かれます。つまり、会計上、帳簿に書かれた数字が絶対的なものだなどと誰も言えないのです。

そして、PERの時と同じように、証券会社の営業マンも株式評論家も、この株式を売りたい=投資家に買わせたいと思ったら、PBRが低くてお買い得です、PBRが高いのに買われる人気の銘柄ですよと、どんな時にも買わせる材料に使えるのです。

ですから、PBRに関しても参考のために知っておくことは良しとしても、それだけで安い、高いの判断をすることはやめておいたほうがいいと思うのです。

このほかに、チャート分析で投資の判断をすることも多く用いられる手法です。過去の値動き、また売買量などを基に投資判断するというわけです。

チャートとは、価格や需給の変化などを日にちごとなど時系列でグラフ化したものです。チャートで表されるグラフの形などを分析して将来の値動きを判断するわけです。

ろうそく足と呼ばれる細長の長方形の形で表したり、例えば、21日移動平均線と7日間の移動平均線の折れ線グラフを書いて、それが交差した、逆転したなどで、売買のタイミングだ、これからもっと上がっていく、底値が割れたなどと評価して売買の参考にするというものです。

しかし、それらはすべて過去の値動きであって、これからの値動きを保証するものではまったくありません。経済状態や投資家の思惑も日々変化していくからです。ただし、チャートを用いて売買している人も少なくないことは確かです。

ほかにもファンダメンタルズを分析していく手法というものもあります。

まあ、みんな儲けたいので、いろんな説が、宗教のように喧々諤々と議論されています。

もう一度言います。これらのことは、参考にするのは大いに結構ですが、何かに着目して、今は安い、高いと決めることはやめておいたほうが無難です。

ほかにも、ROE(Return On Equity、自己資本利益率)、ROA(Return On Asset、総資産利益率)は重要な財務指標と言われますので、紹介しておきましょう。

ROE(自己資本利益率)は、企業の自己資本(株主資本)に対する当期の純利益の割合です。わかりにくいですね。もう少しわかりやすく説明すると、資本に対して、どれだけの利益を上げているかを表す指標です。

1億円の資本金で1000万円の利益を出す会社と、3億円の資本金で1000万円の利益を出す会社があれば、1億円で1000万円儲けてくれる会社のほうが経営効率がいいワケです。これは、その株に投資したらどれだけ利益を得られるか?を示すとされます。数値の目安は10パーセントくらいでしょうか。数字が高いほうがいいとされます。

ROA(総資産利益率)は、総資産に対する利益はどれくらいあるか、つまり収益性を測る数字で、目安は5パーセントくらいと言われます。利益をどれだけ効率的に稼げているかを表すと言われます。

会社経営に投下されたさまざまなお金を総合的にみて収益性を考えるものです。利益率を上げるために、費用やコストの削減を図ったり、売上高を増加させていくことによって数字は改善されていきます。

PER、PBRが株価が割安か割高かを見極める数値、ROE、ROAは成長性を表した数値とも言われます。

著者 佐藤治彦

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