2400万貯めた50歳独身会社員「持病悪化で退職したいが、何歳まで働かないとダメ?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、50歳独身、会社員の女性。アーリーリタイアをするつもりで2,400万円を貯めた相談者ですが、持病が悪化し、なるべく早く退職したいと考えています。何歳まで働けば老後の生活は問題ないでしょうか? FPの氏家祥美氏がお答えします。


50歳、会社員、独身です。

55歳でアーリーリタイアするつもりで貯金をしておりましたが、持病が悪化し、会社に行ったり行けなかったりで、同僚や上司に迷惑をかけている状態です。退職を早めたいと思いますが、何歳まで今の職場で働けば今後の生活に支障がないかわからず、踏み切れません。アドバイスをお願い致します。

【相談者プロフィール】

・女性、50歳、会社員、独身

・同居家族について:母 (別世帯)、年金20万円/月、介護の必要なし

・住居の形態:持ち家(戸建て、東海地方)

・毎月の世帯の手取り金額:25万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:150万円

・毎月の世帯の支出の目安:12万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:5,000円

・食費:2万円

・水道光熱費:1万5,000円

・教育費:5,000円(習い事)

・保険料:5,000円

・通信費:1万円

・車両費:1万円

・お小遣い:3万円

・その他:2万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:5万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:100万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない): 2,000万円

・現在の投資総額:400万円(積立年金)

・現在の負債総額:0円

・公的年金:150万/年、退職金300万円程度

氏家:持病が悪化して会社に行ったり、行けなかったりとかなりつらそうな状況ですね。ご相談者さんの優先順位を考えると、いまは体調の回復が一番かと思います。

体調の回復を第一に考えて傷病手当金で療養を

どんな病気で、どの程度仕事に支障があるのか、ご相談者さんが長期間仕事を休むことで職場にどの程度の迷惑がかかるのかなど、まったくわからないうえで回答しているので、「そんなの無理!」と思われたらごめんなさい。でも、ここで無理をして我慢をしながら働き続けることで、持病がもっと悪化してしまう可能性があります。その時、困るのはご相談者さん自身です。深刻化してからでは体がつらいばかりではなく、治療費ももっとかさんでくるでしょう。治療費の負担は老後資金の計画を狂わせますし、休めるうちに休養を取り、病気は治せるうちにしっかり治すことが重要です。

会社員には、「傷病手当金」という制度があります。療養のために会社を休むあいだ会社から十分な報酬が支払われない場合、連続した休業4日目から最長1年6カ月まで、入院か在宅療養かにかかわらず、標準報酬日額の3分の2を受け取れます。毎月、月給の3分の2を受け取れると思えばいいでしょう。社会保険料の支払いは引き続き必要ですが、傷病手当金自体には税金がかかりません。いまのまま働き続ける場合や有休に比べると収入は減少しますが、会社を辞めてから治療を始めても受け取れないお金です。会社員でいるうちに、しっかり治療に専念しましょう。

これまで会社員としてしっかりと責任を果たしてきたご相談者さん。今回は、その会社員という立場を活用して、療養と向き合ってみませんか。療養を終えて、体調が改善したら、再び同じ会社で働けば今と同じ給与をもらえます。一時的にお休みを取ることには、周囲への迷惑だったり、戻ったときのポジションだったりと数々の心配もあると思います。しかし、無理をして仕事を続けて、会社を辞めてしまってからでは、ふたたび同等の仕事に就くのは困難です。トライする価値はあるでしょう。

なお、傷病手当金を受給し始めてから療養のために退職した場合、傷病手当金の受給期間が残っていれば退職後も受給を続けられます。詳しくは全国健康保険組合「傷病手当金について」を参考にしてください。

療養期間中もほとんど貯蓄の取り崩しはない見込み

続いて生活費を見ていきましょう。手取りベースでの年収は450万円(25万円×12カ月+150万円)になります。一方の生活費は、月々12万円×12カ月=144万円です。

この差額を見ると、年間300万円以上貯まっているようですが、貯蓄を見ると5万円×12カ月+100万円=160万円となっています。140万円以上が行方不明になっていますね。

これは推測ですが、毎月5万円ずつを積立貯蓄して、毎月の生活費は12万円を基準に節約生活を送っている。ボーナスからも100万円はしっかり貯蓄している。残ったお金は基本的に無駄遣いはしないものの、暮らしているとイレギュラーの支出は何かと出ていき、あとは投資に回したり、貯蓄したりして手元にも残している、そんな感じではないでしょうか。

イレギュラーな支出なども考慮したいため、ここからは仮置きで、年間で実際に使っているお金を200万円(1カ月あたり16万6,000円)程度と考えて進めていきます。

今後、療養のために休職した場合、傷病手当金として現在の3分の2の収入を受け取れると考えると、概算で16万6,000円になります。現在の生活費とほぼ同額になりそうですね。療養中は貯蓄こそできなくなりますが、治療にかかる費用が加入中の保険から賄えるのであれば、貯蓄を取り崩すことなく療養期間を送ることができそうです。

療養後に退職しても、65歳までは金融資産でギリギリ生活できる見込み

ここまで休職して療養することを前提にお話を進めてきましたが、今回の一番のご相談のポイントは、「何歳まで頑張って働き続けたら会社を辞めてもいいのか」でしたね。そのために、老後資金の見通しを立てたいということでしたので、そちらに移っていきましょう。

ご相談者さんの現在の金融資産は、貯蓄2,000万円+投資400万円=2,400万円です。これに、退職金300万円を加えると、退職時に2,700万円を金融資産として用意できることになります。

ご相談者さんは現在50歳。今後、療養生活を1年半送り、51歳6カ月で退職をしたとします。退職後はそのまま働かなかった場合、65歳の年金受給開始までは、13年6カ月の期間があります。1年あたりの生活費を200万円とした場合、200万円×13.5年=2,700万円となり、計算上は、現在の金融資産で65歳まで、ちょうどぴったりで余裕はまるでないもののなんとか暮らせる計算です。

65歳以降の生活は?年金でシミュレーションする際の注意

続いて65歳以降の生活を見ていきましょう。公的年金は年間150万円受給の見込みです。1カ月あたり12.5万円になります。最初に記入していただいた生活費が月額12万円でしたので、年金生活に入っても一見、生活できそうな金額に見えます。

ただし、ここで2つ確認していただきたいポイントがあります。一つ目は、この150万円という年金額は、何歳まで働くことを前提に試算されているのかということです、現在の50歳で退職することを前提にしたものか、もともと想定していた55歳リタイアを前提に試算したものか、はたまた60歳まで今のまま働き続けた場合を前提にしたものでしょうか。50歳以上の方に書かれたねんきん定期便では、いまのまま60歳まで働き続けた場合の将来の年金受給額が書かれています。もし、ご相談者さんがねんきん定期便をご覧になっている場合、早期退職をしたらねんきん定期便よりも年金が減ることになります。

二つ目は、ねんきん定期便やねんきんネット等で試算された年金額は手取りではないということです。社会保険料や税金を差し引くと、実際は試算額よりも15%~20%程度手取りが減ると思っておいた方がよいでしょう。

公的年金が手取りで12.5万円期待できない可能性が大きいこと、生活費も月額12万円ではなく、年間200万円(月額16.6万円)程度は見込んだ方がよさそうなことを考えると、65歳以降を公的年金だけで生活するのは困難です。65歳時点でこれ以上取り崩す貯蓄がないことを考えると、早い段階でのアーリーリタイアメントは無理がありそうです。

療養後、ペースダウンして働き続けましょう

そろそろまとめに入りましょう。現在の体調を考えると、すぐにでも療養生活に入ることをお勧めするのは最初に書いた通りです。その間、傷病手当金を忘れずに受給するようにしてください。

療養がうまくいったら、そのまま現在の職場に戻るのがベストな選択です。給与も今の水準に戻りますし、仕事も慣れているので、体調さえ戻れば経済的にはそれが一番安心です。

とはいえ、さまざまな事情で今の職場に戻るのが難しいこともあるでしょう。その場合は、体に無理のない範囲内で、別の職場を探しましょう。うまく正社員の仕事が見つかればいいですが、フルタイムが体調的にも厳しい場合には、パートやアルバイト、派遣社員なども選択肢に入ります。とにかく体に無理のない範囲で、月に数万円でも働きましょう。可能であれば、勤務先の社会保険に加入できるレベル(会社の規模により、年収106万円以上もしくは年収130万円以上)まで働いて、社会保険に加入して、65歳以降も可能な限り働き続けることで、将来の年金額を増やすことができます。

老後のライフプランは、あまりぎりぎりだと何かあったときに対処ができません。別居中の親の世話や、住宅の改修などにお金がかかる可能性もありますし、療養のための治療費が想定外にかかる可能性もあります。多少の余裕資金をいつも持っていられるように、ゆるくても長く働く道を探ってみてください。

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