経済の変化を織り込んでいくマーケット−−動かす3つの要素とは?

投資の売り時・買い時を判断するためには、マーケットがいつ動くかを見極めることが重要になります。

そこで、経済評論家・佐藤治彦( @SatoHaruhiko )氏の著書『素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書』(扶桑社)より、一部を抜粋・編集してマーケットを動かす3つの要素について解説します。


マーケットは経済の変化を時を待たずに織り込んでいく

いろんなことが経済に影響を与えるのですが、市場はその時々に応じて、いくつかのテーマに絞って注目していきます。そして、それらの先読みをして、マーケットに織り込んでいきます。

ですから、投資家としては、マーケットは3月のFOMCミーティングに注目していて、金利の引き上げは織り込み済み。今やその引き上げ幅に注目している。0・25パーセントというのが主流だが、中には0・5パーセントの引き上げの可能性もあると考える人も一定数はいるだろう。さらに、金利の引き上げ後のコメントに注目しておきたい。今後の金利変更を示唆するようなコメントが出てくるかもしれないからだ。

こういう風に市場がどう考えているかを見極めてから、さまざまな事象に当たらなくてはならないのです。

2022年の新年以降は、世界のマーケットは新型コロナウイルスへの経済対策で2年間、大幅な金融緩和をしてきたアメリカFRBの政策転換がどのようなものになるのかに最も注目していました。

しかし、2022年2月になって、ロシアとウクライナの間での緊張が高まり戦争になりました。これによって、世界の貿易、食料供給に大きな影響が生まれ、原油価格が大幅に引き上げられました。ヨーロッパ経済だけでなく世界中に大きな影響を与える要素が加わったのです。

さまざまな事象に影響されて市場は動いていくのです。

ですから、紛争の動向と原油価格の変化に株価が動かされるという局面も山ほどありました。

テーマは時に失業率、自動車や不動産の販売状況、貿易赤字など経済統計の発表になることもあれば、政治的なものにも、天候による農作物の取れ高、大企業の経営動向にも注目が集まることがあります。さまざまなものに変化していくのです。自らの考察、分析、予想とともに、市場がどのように見ているのか、考えているのか?それを冷静に見極めていく必要があるのです。

マーケットを動かすものは3つある

マーケットを劇的に動かすものを3つ、記しておきます。

一つは、市場の思惑とギャップのある出来事が起きた時。もう一つは、重要なのに不透明なことがらの先行きがわかった時。最後は、今までなかった新しいことが加わった時です。変化が起きた時です。

今、市場は何に注目しどう考えているか?

市場が注目していることに影響する不確定要素は何か?

これからの世の中を動かしていく新しいことは何なのか?

それは、テクノロジーの進歩かもしれませんし、新しいルールなのかもしれません。

それらを知っておくことで投資のチャンスを掴むこともあるのです。それを見極める情報ソースとして、新聞や雑誌、テレビやラジオなどのメディアからの情報は、このデジタル時代においても重要だと考えています。特に個別株の取引をするには必要です。

なぜなら世界中の無数のファンドマネージャーから個人投資家に至るまで、マーケットに関する合意形成はメディアによって確認されていくことが多いからです。メディアが何をどう取り上げているかをじっくり見ていけば、市場の向いている先が見えてくるものです。

今はデジタルで情報は手に入りますが、金融のプロは今でも放送や紙のメディアにも注目しています。影響力が大きいからです。デジタルでは並列的に扱われる、それぞれの記事も、紙の媒体では、同じ大きさの記事でも見出しの大きさ、1面に書かれたものなのか、6面あたりのものなのかで大きく意味合いが変わってくる。世の中の流れをつかむには紙の媒体も有用なのです。

新聞というものは、実は毎日、新書1冊分くらいの文章量を掲載しています。ですからすべてを読めるわけではないのですが、毎日眺めていくと、どのように市場が変化していくかわかってくるものです。不思議と大切な記事には目が行くようになる。必要なら読み込み、自ら調べることもするでしょう。記事は同じ文字数でも強弱があるのです。これがデジタルで自ら選択して選んだニュースとは違うところです。自分の興味がなくても大切なものは目に飛び込んでくるものです。

そんな古いメディアのことをすすめるなんてだめだなあ、感覚が古いよと言われる方に反論しておきます。新聞も放送もメディアとしては古いものかもしれません。だからと言ってそこに書かれているものが古いわけではありません。特に、そこで取材をし記事を書いているのは、40代前半までのプロの現役記者です。いや、多くは30代前半の若い記者です。彼ら彼女らが、若い知性と感性、判断力で取材したものが載っているのです。記事の内容や視点は決して古いものではないと強調しておきたいと思います。

お金を増やすヒントを知るための、活字メディア、放送メディアの活用法

テレビやラジオのニュースで、どの情報が、どのように扱われたか?新しくニュースとして取り扱われるもの、以前から扱われていたものが、扱いが大きくなったり、小さくなったりもします。現在の注目点なら、トップニュースでしょうし、新たな動きであれば短く伝えられる。新聞であれば、紙面の片隅のベタ記事かもしれないです。その扱いと変化がマーケット参加者の注目点の合意形成がどこに向かっているのかを示しているのです。経済の変化、資金の量とその流れる方向、速さを示唆してくれるのです。これは放送も同様です。

もう一つ、私がよくやることをご紹介したいと思います。

平日の昼間に20分以上、街中で時間を潰すことになったら、ファストフード店でお茶を飲んだり、スマホを触って時間を過ごすよりも、証券会社の支店にふらっと入ってみることをオススメします。そして、腰掛けてください。

まずは大きな株価ボードがあり、日経平均やTOPIXなどのインデックスや主な会社の株価を掲示しています。また、支店には各証券会社が出している投資のためのさまざまなリポートが置かれていて、冊子など無料でもらえるものもあり大変有用です。

時には支店に来ている個人投資家の人たちの動向を見たり、証券マンの様子を見ていると市況の雰囲気を肌で感じたりもできます。

取引がない会社でもふらっと入る。夏は涼しく冬は暖かい。短い時間を過ごすのにオススメです。

また、週末や夕刻で証券会社が閉店したあとの時間なら、書店に入ってみましょう。新刊と経済コーナーを見ているだけで手に取りたくなるものが見つかるはずです。待ち合わせなどにも最適です。少し待たされても決して無駄な時間になりません。

ほかのコーナーにはどんな本が多いのか、多くなったのか。小説や雑誌にも注目してほしいです。普段は手に取らないものにも手を出してみましょう。

こんなことを書くのは、そこから投資のタネ、利益の元をいくつも拾ったことがあるからです。また、もう相当前に書いたのでどれだけ参考になるかわかりませんが、私は日経新聞の読み方に関する本を何冊か出していますので、よければ読んでみてください。

外国への投資はしないほうがいいですか?

多くの人から質問されることがあります。それは、低成長の日本国内だけでなく、アメリカやヨーロッパ、アジアの新興国など海外の投資はするべきか?という質問です。

今の日本経済は大きな時限爆弾を抱えているといっていいかもしれません。20世紀の後半から21世紀の初めまで、およそ50年間にわたって世界第2の経済大国だった日本ですが、かつては財政に対して厳しい規律がありました。

それは戦後のハイパーインフレなどで国民生活が壊滅的状態に追いやられた反省があるからで、今でも形式上は日本には財政に対してきちんと制限が設けられています。「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」(財政法第4条)そうはっきり書かれてあるのです。

ところが、最初は公共事業を推進するために建設国債という名目で、そして、この30年近くは歳入と歳出の差異を埋めるために、本来は避けるべき赤字国債を発行し続けています。当初は例外として非常に抑制的だったものですが、最近はタガが外れたようになってきました。

そして、今や一定の条件のもとでは、国債などはいくらでも発行していい、事実上、返さなくていいのだという乱暴な理論をかざす人たちも出てきました。

国債の発行は、将来の日本国民や日本経済の大きな重石になります。ところが、目先の景気対策のために日本は驚くほどの債券を発行してしまいました。もはや返済ができないほどに膨らんでいます。その金額は1000兆円をはるかに超えているのです。

さらに、第2次安倍政権からは、健全性が求められる中央銀行が株式などリスクのある金融商品の買い入れを始め、今やそのバランスシートに大きな割合を占めています。

日本は、すでに超低成長国で超高齢化社会、人口減少時代も迎えています。日本円は比較的安全な通貨として、有事の際などに買われてきましたが、果たしてそのような国際的な信用がこの先も長く続くかどうかは断定できません。かつての日本と比べるとじわりと本質的なリスクが増していることだけは間違いないです。

これは先進国全体に共通する問題でもあるのですが、特に日本は深刻なのです。微妙なバランスの上に築かれた砂上の楼閣のようになりつつあるのかもしれません。そこに世界が注目したら、日本売りということがあるかもしれないのです。

そのためか富裕層を中心に日本円だけでなく外貨建ての資産を持つ人も増えています。これは、資産を増やそうというよりも、万が一の時のリスクを分散しておこう。日本円がダメになっても、ドルやユーロでの資産を持つことによって日本円が暴落した時にも、自らの資産が大きく減るリスクをできるだけ回避しようという考えです。

もちろん、外国に投資をする理由はそれだけではありません。

例えば、低金利の日本よりも高金利の海外に惹かれて外貨建て資産を持つ人もいます。

ただし、一時期大人気になった、アフリカの通貨やトルコリラ、オーストラリアドルなどに投資した人の顛末を見てもわかるように、高金利ということは、それなりの理由があるのです。高金利にして海外から資金を自国に呼び寄せたいのです。もしも、国に高い成長性があるのであれば、自然と資金は集まってきます。

しかし、それだけの経済的な魅力はない。そのために金利を高くしてお金を集めようとする。ですから、通貨が一気に大幅に下落して高金利で儲かったと思った分は吹っ飛ぶどころか、円で評価すると損失を出してしまった。そういうことになりかねません。

アジアなどの新興国への投資も注目されてはいます。例えば、中国やインド、東南アジアなどです。そのような国の株式や債券に投資する投資信託もあります。

しかし、じっくり見ていただきたいのです。信託報酬や為替など運用コスト、手数料が高くて結局は魅力に欠けることが多いものだからです。また、政治的な安定性に欠けている場合もあります。カントリーリスクも考えなくてはいけないのです。

そう考えてくると、外国投資はまずはS&P500、ニューヨークのダウなどアメリカの株式市場の代表的な指数のこれまたインデックスファンドへの投資が一番現実的なのではないかと思います。この30年の間に、それこそドルコスト平均法で投資したと計算すると、大きく資産を増やしているという実績もあります。ただし、過去がそうだったからとこれからも同じようになるとは限りません。

まあ、これは皆さんの金融資産が2000~3000万円くらいになってから、その一部を回していくということでいいのではないでしょうか?

それでも30代前半までの方は、まだこれから長い人生が待っていますから、日本と日本円、日本経済が未来に受けるかもしれないリスクはそれだけ大きいとも言えます。ですから、やや大きな割合を回すことも考えていいと思います。

これらも、日経平均やTOPIX連動型インデックスファンドでお話ししたように、大きく下げた時に資産の一部を移すことを考えてください。買うタイミングが大切です。

一つ付け加えておきたいことがあります。それは、アメリカの株式市場の国際性です。

アメリカの株式市場の良さの一つは、そこで上場している会社はアメリカ国内の会社だけではないことです。日本やヨーロッパ、中国やアジアの新興企業も上場基準に見合っていると積極的に進出します。このため、アメリカの株式市場は米国経済だけでなく、世界中の成長セクターの縮図のようになっているのです。

著者 佐藤治彦

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