記録的な大雨に見舞われた福井県南越前町今庄地域で8月5日、山あいの集落沿いを流れる鹿蒜川(かひるがわ)が氾濫。道路は濁流と化して通行不能となり、下新道などの集落が孤立状態となった。「命の危険を感じた。あれ以上水位が上がったらもう駄目だった」。浸水する家屋で県防災ヘリの救助を待つ住民は恐怖に震えた。
町によると、同日午前8時半ごろ、同町下新道で鹿蒜川が越水したとの通報を受けた。下流域にある同町今庄のJR北陸線踏切が水没するなどし、集落へつながる道路が寸断。計6集落(人口計222人)が孤立した。
同町の実家に滋賀県から息子2人と帰省していた女性(38)は午前8時すぎ、家の前の道路が川のようになっているのに気づいた。水量はどんどん増え、床上に浸水。「その後は一瞬だった」。水圧で玄関ドアや窓ガラスが割れ、濁流が流れ込んできた。
親子で2階に避難したが、水位はみるみるうちに約2メートルに達し、見下ろした階段は半ばまですでに水に埋まっていた。「外は一面、海。車もぷかぷか浮いていた。パニックだった」
2階から濁流を見ていると、辺りを見に出掛けて行方不明になっていた父親が流されていくのを見つけた。顔だけを水面に出して「足が付かない」と叫んでいた。その場では助けることもできなかった。しばらくして自力で家に戻ってきて、家族で合流することができたという。
救助はなかなか来ず、夫に向けて遺言の動画を撮影した。「お父さん、今までありがとう」と小学4年の次男。女性は恐怖を押し殺して「絶対大丈夫、絶対助かる」と息子に言い聞かせた。防災ヘリでつり上げられて救助されて避難所に到着し、ようやく緊張から解放された様子だった。
避難所の今庄住民センターには50人以上の住民が身を寄せた。南越消防組合のゴムボートで祖母らと一緒に救助された同町の中学3年の男子生徒は「倒れた家具を押しのけて何とか2階に逃げた。死ぬとしか思えなかった」と表情をこわばらせていた。
水没した同町今庄の踏切付近では、集落から押し流されてきたとみられる車数台が横転。集落に戻れなくなった男性(46)は同日午前、収まらない濁流を前に「子ども2人が孤立している。早く戻ってやりたい」と不安を募らせていた。
けん引車にボートを積んだ陸上自衛隊の車両が午後2時すぎに到着し、被災現場へと急いだ。南越消防は約140人体制で救助に当たり、嶺北各地の消防計約30人も応援した。福井県警越前署員や県警機動隊員は被災各地の安否確認に当たった。
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