ほんの小さなコーナーを

 もう30年ほど前だが「ご家庭に眠るこいのぼりをご提供ください」と記事にしたことがある。市民団体が「こどもの日」にちなみ、川辺にこいのぼりを掲げるため募っているのを知り、いくらか力になれば、と▲「しまっておくよりも何かに生かして」と思う方々が多数いたらしい。たった十数行の記事だったが、かなりの数が集まったと聞いて驚いた。ほんの短い記事が人の心を動かすこともある。心せよ、と自分に言い聞かせた覚えがある▲そんな往時がふと思い起こされる。コロナ禍ですっかり出番がなくなったが、クルーズ船の入港時刻などをお知らせするコーナーが以前は紙面の“定番”だった-と、先日のこの欄に書いた。〈昨年亡くなりました主人のことを思い出して〉…。それを読んだという長崎市の70代の女性からはがきが届いた▲ご自宅から港を見下ろせるらしい。夫の闘病生活は8年にわたり、つかの間の安らぎが、窓際のベッドから見るクルーズ船の出入港の姿だったという▲「クルーズ船情報」を見て、時間になれば「早く窓を開けてくれ!」と注文されたという。ほんの小さなコーナーだが〈楽しみに待っていた読者がいました〉▲心待ちにしてくださる方々がいることを改めて胸に刻む。心安らぐ港の風景よ、また再び-と改めて願う。(徹)

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