<秒読み 西九州新幹線開業> 『落ち込む長崎観光』 増やせるかスローな旅

眼鏡橋の前で開業記念コースの研修をする「長崎さるく」のガイドら=長崎市

 9月上旬、JR長崎駅。西九州新幹線開業を記念した「長崎さるく」特別コースの研修が始まった。眼鏡橋まで1時間。ガイドたちは案内地点を確認しつつ、歴史知識を共有し、観光客から質問された際の“引き出し”を増やしていた。受講した小島昭德さん(66)は「私たちの使命は長崎ファンを増やすこと」と待ち受ける。
 西九州新幹線の誘客ターゲットは▽関西圏(約2054万人)▽中国圏(約603万人)▽福岡県(約513万人)=2020年国勢調査=。人口減が進む長崎県にとって、その活力はのどから手が出るほど欲しい。しかも新型コロナウイルスで長崎県の観光需要や消費額が大きく落ち込む中で迎える開業。「他の地域にはないチャンス。これを生かさない手はない」。県旅館ホテル生活衛生同業組合の塚島宏明専務理事は起死回生策として期待する。
 「クイック&スロー」。九州新幹線鹿児島ルート開業前後で鹿児島への来県客のニーズがどう変化したかについて、地元財界人はこんな言葉を使う。今までより移動時間が短縮した分、現地をゆっくり巡るようになったというわけだ。
 当時、JR九州は鹿児島市と霧島方面をつなぐ観光列車「はやとの風」を新設し周遊につなげた。今度はその車両を改装し「ふたつ星4047」として新幹線と同時に西九州に投入する。絶景の有明海沿いと大村湾沿いを走らせ「スローな旅」を演出する。
 長崎国際観光コンベンション協会(長崎市)も市内回遊を促すため、宅配業者らと連携。長崎駅で預かった手荷物を宿泊施設まで配送する事業を開業に合わせて始める。
 観光需要を取り込む準備は沿線外でも進む。
 五島市には8月、これまで島になかった富裕層向け高級ホテルがオープン。建設した総合商社双日の藤本昌義社長は「(新幹線で)関西圏と近くなる」と期待を寄せた。10月放送開始のNHK連続テレビ小説の舞台は五島列島と東大阪。相乗効果を狙う市は、大阪で観光物産イベントも複数回予定する。
 雲仙温泉街(雲仙市)では11月に星野リゾートが県内初進出となる旅館を開業。12月に建て替えオープンする老舗、雲仙宮崎旅館の宮崎高一社長(59)は「例えば、雲仙に泊まって島原半島を周遊し、船で熊本に渡るなど旅行の幅は広がるはず」と話す。
 開業効果を持続させるには、嬉野、武雄両市の温泉街など佐賀県側とも連携し、西九州の「スローな旅」の選択肢をいかに増やすかが鍵の一つとなりそうだ。既に雲仙の観光案内所では佐賀県民からの問い合わせが増えている。


© 株式会社長崎新聞社