ツバメの“帰省”心待ち 新上五島・奈良尾の大﨑たたみ店 巣立ちまで気が抜けない日々も

ひなに餌を運んで来たツバメの親=8月16日、新上五島町、大﨑たたみ店

 新上五島町奈良尾郷、大﨑たたみ店の2代目店主、大﨑一さん(48)は毎年、ツバメが“帰省”するのを心待ちにしている。十数年前からツバメが店の中で営巣、産卵し、ひなを育てるようになった。多い年は3回産卵するという“子育て”の現場を訪ねた。
 同店は奈良尾港近くの通りに面し、入り口の上部窓の一つはツバメの出入り口として開放。もう一つには妻、五月さん(45)が手作りしたツバメの切り絵を貼っている。巣台は店内に2カ所ある。2家族がやって来るが、今年は1家族だけで、5月と7月に計2回産卵。「2家族が来た際は、争わずお互い見守っているように見える」という。

店内で飛行練習中、額縁に止まるひな=2021年5月(大﨑さん撮影)

 日本野鳥の会県支部によると、ツバメは九州では3月ごろ、東南アジアから北上して夏に2、3回繁殖し、1回に5、6個産卵。約2週間でふ化し、約3週間で巣立つ。9、10月ごろ越冬のため南下する。
 移動距離は2千キロ以上。飛行速度は通常40~50キロで餌の捕獲や天敵から逃げる際はさらに速い。寿命は15年ぐらいとされるが、天敵のヘビや鳥などに襲われるほか、渡りの途中で力尽きることも。多くは1、2年しか生きられていないとみられている。1年後に同じ巣に戻ることが多い。
 大﨑さんらはひなが巣立つまで気が抜けない。夜間はシャッターを閉めるが、親鳥がおなかを空かせたひなのために餌を集めに行くので、毎朝6時ごろにシャッターを上げる。店の換気をしようと玄関ドアを大きく開けた際、カラスが入ってきて、大慌てで追い払ったこともある。
 ツバメは大﨑さんらに慣れ、天敵から身を守るガードマンとして頼っているようだ。また、人の違いを認識できるのか、記者が取材した8月中旬、カメラを持って巣に近づき過ぎると親鳥は店内に入って来ない。離れると、戻って来て餌をやり始めた。それでも巣から約50センチの距離まで近寄ることができた。「この店なら大丈夫」という安心感があるのだろうか。
 餌を持ち帰って来た親が姿を現す数秒前、ひなは巣から顔を出して盛んに鳴き始めた。コミュニケーション能力の高さに驚いた。
 例年、ひなは巣立ちする2日くらい前の夕方に、巣を出て、天井にある電気コードや額縁に止まり、店内で飛行練習を始める。「落ちそうになりながらバタバタしている様子がおかしくて、かわいい」と大﨑さん。しかし、その間は特に注意が必要。大﨑さんらが大きく動くと、驚いたひなが激しく飛び回り、壁や窓ガラスに衝突して命を落とすことがあるからだ。

ツバメの切り絵を貼った窓を指す大﨑さん。ツバメは右隣の窓を使って出入りする

 店内のガラス窓にポスターやツバメの切り絵を張っているのは衝突防止の役目もある。「2家族がいるときは産卵や巣立ちのタイミングが、不思議なことに微妙にずれており、飛行練習期間が重なることはない」
 7月に生まれたひなは8月23日、屋外で練習し、店には戻らなかった。今年最後の巣立ち。台風接近を察知したのか、慌ただしいスケジュールにしたようだ。
 大﨑さんは巣立ち後、巣の中を掃除して来年に備える。ふ化しなかった卵は取り除く。「そうしないとこの巣には入って来ない」と経験で学んだ。
 「縁をかさ上げしたり“増改築”したりしてすみ始めるツバメもいれば、そのまますむものもいる。1年前のままですみ始めるのは、やはり同じ家族かもしれませんね」とほほ笑んだ。
 また、来年-。無事に帰っておいで。


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