命じる重み、命の重み

 「命」という字は「令」と「口」を組み合わせている。「令」はひざまずく人の形、「口」は神にささげる文(祝詞)を入れる器の形だという▲つまり、人がお告げを聞くさまを表す漢字で、そこから「言いつける」「命じる」の意味が生まれたらしい。語源をたどれば「命じる」という行いがやけに重々しく思えてくる▲いま、命じることの意味の重さを政府はかみしめる時だろう。旧統一教会に解散を命じるよう裁判所に求めるとしたら、どんな場合か。国会でそう問われて岸田文雄首相は、刑法などに反した場合であり「民法の不法行為は入らない」としていたが、きのうは「入り得る」と逆のことを言った▲教団が多額の献金を強要したのを違法とする判例が、民事裁判でいくつもある。「民法の不法行為」の例を一つも含まずに、解散命令の請求ができるはずはない。普通はそう考える▲教団の「不正」な行いを明るみに出す、と政府が本気の構えでいれば、こんな右往左往はなかっただろう。支持率が下がり、腰を上げる。「本気」よりも「渋々」の方がよほど際立つ▲おとといは、かねて教団からの被害を訴え、息子が自ら命を絶ったという男性が会見し、怒りをあらわにした。命じることの重み。命の重み。命懸けで訴える重み。「命」の文字がずしんとくる。(徹)

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