『西九州新幹線開業1カ月』測りにくい開業効果 宿泊・土産売り上げ増、旅行支援の追い風大きく

西九州新幹線かもめのグッズが人気を集める土産売り場=16日、長崎市尾上町、JR長崎駅

 西九州新幹線(武雄温泉-長崎)の開業から23日で1カ月。宿泊客数や土産の売り上げが伸びるなど地域に一定の恩恵をもたらしているが、新型コロナウイルス感染状況の改善に伴い「全国旅行支援」が今月始まったことで人流が活発化した“追い風”が大きく、純粋な開業効果は測りにくい。一方で、期待の大きさとは裏腹に、需要を取り込もうとする民間の動きはまだ鈍いようだ。
 県旅館ホテル生活衛生同業組合によると、長崎市内の9月の客室稼働率は65%(前年同月比30ポイント増)だったが、10月は71%(同31ポイント増)に上昇する見込み。同組合の塚島宏明専務理事は「コロナ以前と比べても7~8割に戻ってきている。新幹線開業と全国旅行支援の相乗効果が出ている」とみている。
 1日当たりの入国者数上限を撤廃するなど水際対策が緩和され、インバウンド(訪日客)の回復も今後見込まれる。別の市内ホテル関係者は「これから旅行会社が『新幹線で長崎へ』をうたい文句に売り出していくのでは」と読む。
 長崎駅構内の土産店「長崎銘品蔵店」は、新幹線関連グッズが売れ筋で、人出の多い週末はスタッフを増員。「売り上げナンバーワンは『かもめのロングバームクーヘン』。1か月で約800本売れた」と濱口まり子副店長は声を弾ませた。
 博多-長崎を結ぶ九州急行バス(福岡市)の高速バス「九州号」も利用が増えている。コロナ前に比べ便数は6割程度に抑えたままだが、新幹線開業後の週末は臨時便を運行するようにした。

 ホテルフラッグス諫早(諫早市)は「開業によって露出が増え、諫早の注目度は高まっている」と実感。館内レストランで地元食材を使ったメニューを提供するなど地域と連携し魅力を発信していく。
 ただ「開業イベントは盛り上がったが…」と持続性に首をかしげる諫早市民は少なくない。開業に合わせ、諫早駅から雲仙・小浜方面に定額タクシーが運行を始めたが、利用は今ひとつ。「まだ効果の実感は薄い」。こう話す諫早エキマエタクシーの永井栄次常務は、交通の結節点である立地を踏まえ「これから観光客に諫早市内も回ってもらえるよう官民が連携しなければ」と期待をつなぐ。

 大村市では、新設された新大村駅と長崎空港、高速道路の大村インターチェンジ(IC)の3拠点を結ぶ乗り合いタクシーの実証運行が始まった。こちらは、新幹線開業日から8日間で200人以上が利用し「予想以上」(市担当者)となった。
 早くも新大村駅周辺への移住に関する相談が市に寄せられている。市は「『新幹線がある町』というのは移住に大きなプラス。(移住希望者の)駅前再開発への期待も大きい」と話す。

 九州経済調査協会(福岡市)が新幹線開業前(9月1~22日)と開業後(23~30日)の各地の宿泊者数を比較調査したところ、佐賀県嬉野、武雄両市を含む沿線5市だけでなく、雲仙市や島原市など周辺も開業後が上回った。
 島原鉄道(島原市)は新幹線開業との相乗効果を狙い観光列車「しまばらカフェトレイン」を運行し「予約は好調」。今後も「(島鉄)沿線の関係者と一緒に地域の魅力を発信していきたい」としている。

 新幹線は通勤通学圏も拡大させた。ただJR九州によると、9月末時点で西九州新幹線の定期利用は200人強。廃止した在来線特急かもめと比べ、まだ微増にとどまっている。
 自治体は種をまく。大村市の隣、東彼東彼杵町は、町外に遠距離通勤(隣接地を除く、鉄道以外も対象)する40歳未満の町民を対象に、月額8千円を支給する応援金制度を導入する方針。嬉野、武雄両市は定期券購入補助を始め、定住促進を図る。

 別の視点から開業効果を捉える向きもある。「外から人を呼び込むだけでなく、(イベントなどで)市民が盛り上がって街中に繰り出すのも大きい」。こう話すのは長崎観光国際コンベンション協会(長崎市)の豊饒英之DMO推進本部長。秋の観光シーズンを迎えた。「熱気を取り込もうとする動きがこれからもっと出てくれば、開業効果はさらに広がり大きくなる」


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