息子に感化されパラの道へ 右膝下切断のスイマー 森田拓郎さん(40)

家族で障害者スポーツに励む(左から)森田拓郎さん、長男の悠月君、妻の舞奈さん=9月、横浜市の横浜国際プール

 親子2代のパラアスリートだ。29日に栃木県で開幕する全国障害者スポーツ大会「いちご一会とちぎ大会」。水泳肢体不自由男子2部区分6(片下肢切断)に臨む森田拓郎さん(40)=長崎県教委=は、同じく生まれつき手足に障害がある長男の頑張りに感化されて3年前から練習を始め、初めて県の代表に選ばれた。「障害があっても好きなことにチャレンジできる。そう息子に教えられた」。水泳は今、生きがいであり、家族をつなぐ絆となっている。
 森田さんは脛骨(けいこつ)欠損症で1歳の時に右膝下を切断。義足の生活を強いられながらも、長崎市立土井首小、中と地元の水泳クラブに通っていた。小学生のころは並行してミニバスケットボールに励み「義足のプレーヤー」と話題にもなった。中学卒業を機にスポーツから離れたが、大人になっても「スポーツを楽しみたい」という思いがくすぶっていた。
 きっかけになったのは一人息子、悠月君(13)=土井首中=の活躍だった。両膝下の脛骨欠損症に加えて両手指欠損があるにもかかわらず、健常者と同じ水泳部に所属。成年勢も参加する9月のジャパンパラ大会では、自由形の50メートルで2位、100メートルで3位という日本トップレベルの成績を残した。現在はパラの他競技の関係者からも注目される選手に成長した。
 「息子が頑張っているな。俺も運動がてら、一緒に泳ごうかな」。背中を押されるように親子でプールに通うようになり、5月の県障害者スポーツ大会に初出場。とんとん拍子に県代表に選出され、9月の県選手団結団壮行式では決意表明の大役も任された。息子が与えてくれたチャンスの扉を開いてみると、ちょっと前の自分では考えられないような世界が広がっていた。
 もう一人、価値観を変えてくれた大きな存在がいる。幼なじみの妻、舞奈さん(40)は看護師として働きながら、障害がある家族を支え、チャレンジを後押ししてきた。2人の体のことを考えた食事を日々つくってくれている。
 「妻には面と向かっては言えないような苦労をたくさんかけてきた。それでも、いつも前向きに人生を謳歌(おうか)できるような方法を一緒に考えてくれている。本番ではしっかり父親らしいところを見せたい。自分の両親への親孝行になればとも思っている」
 今回は29日に25メートル自由形と25メートル平泳ぎに出場予定。遅咲きのパラアスリートは、家族への感謝を胸に晴れ舞台に立つ。


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