それでも「頑張るしかない」 台風でハウス全半壊 初収穫断念も前向く対馬の就農者

台風11号でビニールハウスが倒壊した畑の前に立つ上原さん。アスパラガスは野ざらしになっている=対馬市厳原町

 9月に長崎県に最接近した台風11号。昨年Uターンし、今年からアスパラガスの栽培を始めた対馬市の新規就農者、上原正成さん(24)は大きな被害を受けた。ビニールハウス5棟が全半壊。来春の初収穫は断念せざるを得ず、農業収入は当面絶たれることに。それでも「頑張るしかない」。今は前を向く。
 対馬市厳原町出身。諫早市の県立農業大学校を卒業後、「地元に貢献したい」とUターンした。価格が安定したアスパラガスに目を付け、自宅の耕作放棄地を整地。今春、約20アールの畑に苗3700株超を植え、来年3月の収穫を目指して育ててきた。
 台風一過の9月6日。荒れ果てた畑を前に途方に暮れた。ハウスの鉄骨が崩れ、ビニールはめくれ上がり、アスパラガスの多くが野ざらしになっていた。
 吹き下ろしが強い段々畑だったことに加え、雨から守ろうと、ビニールを外す方法ではなく、閉め切って台風に備えていたことが裏目に出た。アスパラガスは強風で傷んでいた。
 県対馬振興局によると、台風11号による市内の農業用ハウスの被害額は約1900万円。このうち半分以上を上原さんの被害が占めた。上原さんは「1年目で台風を甘く見ていた部分もあった」と悔やむ。
 ハウスの修理費はいくらかかるかまだ分からない。再来年に向けて育て直し、その間は国の新規就農者向け支援金(月12万5千円)とアルバイトで営農と生活を続けるしかない。
 人口減と高齢化の波に洗われる長崎県。離島の状況はさらにシビアだ。農林業センサスによると、市内の販売農家は362戸(2020年時点)。新規就農者は19~21年にかけて3年連続で5人。近年は減少傾向にあり、高齢化も重なって担い手不足は深刻さを増す。市の担当者は「20~30代の農家は数えるほど。上原さんには頑張ってほしいし、できる限りの支援は考えていきたい」と話す。
 被害後、行政やJAの職員、地域の人たちが壊れたハウスの撤去を手伝ってくれた。「本当にありがたかった。自分がアスパラガス農家として安定して生活ができるようになれば、もっと若い人の就農が増えるはず」「再来年に向けて頑張るしかない」。上原さんは必死に、再び一歩踏み出そうとしている。


© 株式会社長崎新聞社