競技振興の素地育む 貴重な機会、手放した町も 【いちご一会のレガシー とちぎ国体・障スポ閉幕】③運営担った自治体

自転車ロードレースを応援する那須町の子どもたち。町を挙げて国体を迎えた=10月9日午前、那須町寺子乙

 道路脇をびっしりと埋めた児童が「頑張れ」と夢中で声援を送る。「僕なんか1周も走れない」。6年の男児は目を丸くした。

 那須町で10月9日に行われた国体自転車ロードレース競技には、町の全児童生徒が駆けつけ、高齢者施設のお年寄りも沿道で旗を振った。総勢約1万人の人出。地元の魅力を詰めたおもてなし広場もにぎわった。

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 1日だけの競技のために、町は17.6キロのコース沿線を全戸訪問し交通規制に理解を求め、町民と2度ごみ拾いもして選手を迎えた。「子どもたちに何としても見せてあげたかった。国体が地域を一つにした」。町実行委員会の高藤建(たかとうたつる)事務局長(54)は振り返る。

 全市町で競技開催を計画したとちぎ国体。観客やボランティアなどさまざまな形で住民が参加した。その体験は、地域に一体感や新たな価値も生み出した。

 スポーツクライミング(SC)を実施した壬生町。東京五輪に出場した本県の楢崎智亜(ならさきともあ)ら全国の強豪の妙技に、会場は熱気に包まれた。「コロナ禍でも大成功と言えると思う」。町国体推進室で運営に当たった栗原徹(くりはらとおる)さん(44)は喜ぶ。

 SCの大会を町内で開くなど、町民への浸透を図ってきた。運営には壬生高が全面協力。会場で解説を務めた世界的クライマー平山(ひらやま)ユージさんは「全国の郷土愛がある。国体は競技普及にとっても非常に重要」と盛り上がりを喜んだ。

 ロードレースは地元那須地域にプロチームがあり、発展の素地もある。「サイクルツーリズムなど観光の新たな魅力につなげたい」と高藤さん。東京五輪で正式競技となったSCは、注目度も急上昇。栗原さんは「町民スポーツとして、町を核に本県から全国へ発信したい」と理想を描く。

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 こうした貴重な機会を手放すことになった自治体もある。市貝町のオープンウオータースイミングは、会場の貯水池でアオコが発生し、水質悪化のため本番前日に中止が決まった。「泳げるわけがない」「なぜここを会場に」。選手らを迎えたのは、不気味な青緑色に染まった水面だった。

 前代未聞の事態。本県で大会開催の例もない競技を小さな町が担う力があったのか、競技関係者の間には疑問の声も上がる。責任の所在も不明確なままだ。

 運営を担当する自治体は、競技とどう向き合うべきなのか。片や国体の意義を体現し、片やスタートラインにも立てなかった。国民スポーツの祭典は、その落差の大きさも際立たせた。

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