廃業も考えた福井・片町のジャズバー「私が継ぎます」 “聖地”SHIRAI HOUSEを守った弟子の熱い思い

白井淳夫さん(左)からジャズバーを引き継いだ畑春美さん=福井県福井市順化2丁目の「JAZZ BAR SHIRAI HOUSE」

 福井県福井市の繁華街、通称片町にあるジャズバー「JAZZ BAR SHIRAI HOUSE」のオーナーがこのほど、サックス奏者の白井淳夫さん(77)から、日頃から店の生演奏に参加していたジャズボーカリストの畑春美さん(52)に代わった。白井さんが店を始めて35年。新型コロナウイルスの影響で飲食店が大きな打撃を受ける中、生演奏が聴ける福井のジャズの“聖地”が師匠から弟子に受け継がれた。

 店は、福井を代表する奏者の白井さんが42歳で始めた。店内にはジャズ界の巨匠たちの写真が飾られ、壁には店で演奏したプロミュージシャンのサインが書かれている。店に30年以上通う男性(84)は「生演奏を聴きながら、飲んでウキウキできる最高の店」と話す。

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 新型コロナ流行後、店は何カ月も休業を余儀なくされた。年を重ね、衰えも感じていた白井さんは「80までやるつもりだったが、気持ちがめいった。廃業を考えた」。

 そんなとき、畑さんが「私が継ぎます」と声を上げた。「ジャズの生演奏をしているのは福井でここだけ。なくしたくない」。ジャズへの思いは誰より強く、10年前に白井さんの音にほれ込んで弟子入りした。「生演奏にこだわるスタイルをそのまま継ぎたい」と熱く語る畑さんに、白井さんは店を無償譲渡。県事業承継・引継ぎ支援センターと日本政策金融公庫福井支店の支援を受けた。

 10月29日、白井さんがオーナーとして店に立つ最後の日。ジャズ好きの客で埋め尽くされた店内で、白井さんに畑さんから花束が渡された。店は拍手で包まれた。

 その後2人で披露したのは「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」。畑さんが歌い上げる横で、白井さんがサックスを奏でる。「すばらしいコンビ」。常連客は2人を見ながらほほえんだ。

 11月からは畑さんがオーナーとして店に立っている。「生演奏を金、土曜に増やす。セッションの機会も増やしたいし、子どもがジャズに触れる場所もつくりたい」。白井さんは畑さんが慣れるまでサポートするという。

 白井さんはこれまでと変わらず演奏家として、土曜日は店で演奏する。「これまで店があって行けなかった所でも演奏したい」と話している。

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