ファストリにキーエンス、オービックも…投資単位100万円超え企業が東証から要請された株式分割とは?

最近、東証の売買代金トップは、ほぼレーザーテック(6920)が占めています。

11月16日(水)には同社株だけで6121億円の売買代金をこなし、プライム市場全体の17%を占めました。現在も10%を超える売買代金が続いています。自動売買の増加など、さまざまな要因はあると思いますが、この1社が占める売買代金の上昇は異常な様相です。


東京証券取引所からの「お願い」

そんな折、JPX傘下の東京証券取引所は、2022年10月27日(木)に「投資単位の引下げに係るご検討のお願い」を発表しました。

発表された資料によると、10月14日(金)の金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第21回会合において、「個人投資者の投資しやすい環境を整備するために、投資単位が高い水準のままにある上場会社に関して、 投資単位の引下げが図られる必要がある」と指摘があったと記しています。この水準にある上場会社の投資単位の引下げに向けて、株式分割の実施を促す要請をしました。

東証は1990年に個人投資者が投資しやすい環境を整備すべく、上場会社に対して投資単位の引下げの要請を開始しました。当時は70%を超える企業が100万円以上の投資単位で、50万円以上100万円未満の企業と合計すると約97%となっていました。その頃は1,000株単位での売買が主流であった事で、投資金額が大きくなっていました。しかし、東証の要請があったにも関わらず、一向に売買単位の引き下げは進まずにいました。

そうした状況から、東証は2001年に上場規則の努力義務として「50万円未満」の水準が望まれる旨を明示し、50万円以上の会社に対して投資単位の引下げに係る考え方、及び方針等の開示を義務化しました。株式併合や株式分割などを実施する企業も目立ち、現在は約95%の会社が50万円未満の水準を維持しています。

一方、依然として投資単位が高い水準に留まっている会社も一定数あります。東証が発表した10月26日(水)現在、50万円以上の企業が197社(全体の約5%)で、100万円以上が39社(全体の約1%)となっています。

株式分割による影響は?

100万円を超える企業は、冒頭で触れたレーザーテックに加え、100株購入するのに800万円以上必要となるファーストリテイリング(9983)を始め、500万円以上必要なSMC(6273)やキーエンス(6861)、そのほか東京エレク(8035)、エスケー化研(4628)、ディスコ(6146)、シマノ(7309)、オービック(4684)、SHIFT(3697)など39社です。東証がこのような企業に対し、株式分割を要請した事で今後、企業側も対応を検討する可能性もありそうです。

11月18日(金)にファーストリテイリングは開示情報で「投資単位は高い水準が続いており、投資単位の引き下げについては、今後の株式市場の動向、証券市場の要請、当社株式の株価や流動性を総合的に勘案しながら、多面的な視点から検討してまいります」と配信しました。ちなみに2年前の2020年11月時点の開示では「投資単位の引き下げは検討しておりません」としていたので、今後は株式分割などで売買単位の引き下げを行う可能性もあるように感じます。

株式分割とは、1株をいくつかに分割し、発行済みの株式数を増やす事です。例えば、1株を2株に分割すると、各株主の持ち株数は自動的に2倍になります。

分割をする理由としては、分割後は売買購入金額が下がることで、購入しやすくなる側面があります。昨年1:5の株式分割を実施したトヨタ自動車(7203)は株価が5分の1に低下した事で、2022年3月末時点の株主数が81万3254人となり、1年間で30万人強(6割)増えました。また、今年10月には任天堂(7974)が1:10の株式分割を実施し、それまで600万円必要だった売買代金が、現在では60万以下で購入できます。

そうしたメリットがある反面、デメリットして株主数の増加にともない、株主対応のコストが増える恐れがあります。突然株主優待などを廃止することなども考えられます。また株式分割を発表した企業の株価が上昇する事も多々ありますが、企業価値が向上する訳でも低下する訳でもない事は忘れてはいけません。

米国市場はすべての上場株式・ETFを1株単位で購入することができるので、少ない資金で投資を始めることが可能です。日本は100株単位での売買が基本となるため、米国株と比較して購入金額が高くなります。

今後、日本の株式市場への参加者を集うには売買単位の見直しは必要であり、その点をクリアすることが一つの課題だと感じています。

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