チラムネが「このライトノベルがすごい!」殿堂入り 福井出身の裕夢さん、スランプ乗り越え第7巻

“チラムネ”の殿堂入りを祝うポスター(ⓒ『千歳くんはラムネ瓶のなか』著:裕夢 イラスト:raemz/小学館「ガガガ文庫」刊)

 福井県福井市出身の作家、裕夢さん(35)=東京都在住=のライトノベルシリーズ「千歳くんはラムネ瓶のなか」が、11月26日に発売された2023年版の「このライトノベルがすごい!」の文庫部門で2位に輝いた。21、22年版の同部門で連覇しており、今回の入賞で殿堂入りが決定。裕夢さんは「斬新な新作がたくさん出てくる中、3年連続で選ばれてうれしい」と喜びを語った。

 「チラムネ」の愛称で親しまれている同作は、福井の架空の学校「藤志(ふじ)高校」を舞台にした青春ラブコメディー。男子高生千歳朔(ちとせ・さく)を中心に、彼を取り巻くヒロインたちの人間模様や悩み、友情を描いており、小学館ガガガ文庫から7巻まで刊行されている。

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 非モテやオタクが主人公となる話が多いラノベ作品には珍しく、外見、中身とも優れた男女が集う“リア充”グループの生徒を描き、1巻から大きな反響を呼んだ。作中にヨーロッパ軒や一乗谷朝倉氏遺跡など実在の店や観光スポットが登場しているのも特徴で、福井市を挙げて観光キャンペーンを展開し、ファンによる聖地巡礼も盛り上がっている話題作だ。

 「このライトノベルがすごい!」は、前年9月から翌年8月までに発刊された作品を対象に、読者のウェブ投票などで順位を決める。ラノベ界の動向を示す指標として注目されており、チラムネは21年版(1~3巻)、22年度版(4~6巻)で1位に輝き、デビュー作品では初の連覇を果たした。

 「3連覇は意識していた」という裕夢さんだが、昨年8月に出した6巻で物語の前半が一区切りを迎え、7巻の執筆中に作家人生で初めてのスランプに陥った。一時的に断筆を考えるほど追い詰められたが、ふと耳にした歌をきっかけに「頭の中で登場人物がクライマックスのセリフを話し始めた」という不思議な体験をした。「このセリフを作品の中できちんと言わせてあげなければ」と奮起し、一気に物語を書き上げたという。

 辛い時期を振り返り「殿堂入りしたことでちょっと肩の荷は下りたかな」と裕夢さん。「これからもファンの期待以上の作品を届けられるよう走り続けたい」と話していた。

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