「新しい景色見られた」車いすで生活する画家・萩原さん 人気バンドのジャケット画制作

萩原さんが手がけたジャケット画(JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント提供)

 身体に重い障害を抱えながらプロの画家を目指す長崎県諫早市の萩原慎哉さん(31)が、人気バンド「go! go! vanillas(ゴーゴーバニラズ)」の14日発売のアルバム「FLOWERS」でジャケット画を手がけた。6月にLINE(ライン)ニュースで配信した萩原さんの半生をまとめた本紙特集記事が縁で制作が実現。萩原さんは「アルバムの“顔”を作るプレッシャーはあったが、新しい景色を見られた」と笑顔で振り返る。

萩原慎哉さん

 萩原さんは高校1年の時に自宅で頸髄を損傷。首から下のほとんどが動かなくなり、車いすで生活する。芸術大でグラフィックデザインを専攻後、就職活動の挫折を機に本格的に絵画制作を開始。現在は「水中で泳ぐペンギン」を題材に油彩画を描いている。
 萩原さんは元々、バニラズのファン。7月に配信リリースされた楽曲「ペンペン」を聞き、ペンギンを主人公にしていることや自分の道を突き進むことを訴える歌詞に共感して、バニラズのドラム担当ジェットセイヤさん=大村市出身=にSNSで感想を送った。すると、すぐに返信が届き、バンド内で萩原さんの特集記事が読まれていたことが判明。数日後にはマネジャーからジャケット画制作を提案され、萩原さんは展開の早さに戸惑いながらも二つ返事で引き受けた。
 8月から主にボーカルの牧達弥さんとLINEでやり取りを開始。約1カ月をかけてデザインを練った。
 何度もラフ画を作成して牧さんと意見交換。最終的に、1輪の花が水中で力強く咲く構図に決定。「輝く花が世界中に広がるように」という新アルバムのコンセプトから、種に見立てた水泡が花から画面の上部に広がるように描写した。理想的な表現を探るため、家族に協力してもらいながら水槽で泡や水、光の様子を観察したという。

go! go! vanillas

 9月ごろに油彩画に取りかかったが、締め切り間近の同月下旬に突然体調を崩して入院した。当初は退院のめどが立たずに絶望感さえ抱いたが、2週間で自宅に戻ると一気に制作。「しんどかろうが何だろうが描き上げようと思った。作品を手渡した時は安堵(あんど)感でいっぱいだった」
 萩原さんの絵は11月下旬、新アルバムの魅力を解説するユーチューブの生配信でも披露された。牧さんは長崎新聞の取材に「イメージした以上のエネルギーを絵に込めてもらった。一緒に作品を作ることができて光栄」とコメントした。
 今回の“共作”を「苦労もあったが楽しかった」と語る萩原さん。「描き続けたからこそ自分の絵を良いと言ってくれる人に出会え、仕事につながった。今後も地道に描くだけ」と前を見据えた。


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