2023年、物価上昇・円安はどうなっていく?日本経済復活のカギとなるものとは

2022年は非常に多くの要因によって経済環境が大きく変化した1年でした。2020年から続くコロナ禍だけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻、世界的なインフレ、各国の金融引き締めによる景気減速懸念、中国によるゼロコロナ政策など世界レベルで経済にネガティブな事象が起き、さらには日本では急速に円安が進行するということもありました。来年も世界景気の減速が見込まれていますが、日本経済が復活するためには何がカギとなるのでしょうか?


物価上昇はいつまで続く?

2022年、国内外で共通して話題になったのは物価上昇です。長らく物価が上がらなかった日本においても、ついに物価上昇が話題となりました。実際に買い物をしていても、本当にあらゆるモノの値段が上昇したことを実感します。極端なことをいえば、物価が前年比で5%上昇したとしても、賃金がそれ以上に上昇していればそれほど問題ではありませんが、実際には賃金の上昇が物価の上昇に追い付いていません。

厚生労働省が発表した10月の毎月勤労統計調査によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比-2.6%となりました。これで前年同期比がマイナスになるのは7カ月連続のこととなります。しかも、10月のマイナス幅は2015年6月(2.8%減)以来、7年4カ月ぶりの下落幅となっています。

これから賃金がどんどんと上がっていくイメージを持てている人は少ないでしょう。それでは、物価上昇はいつまで続くのでしょうか。総務省が発表した10月の消費者物価指数は「総合」で前年同月比+3.7%となっています。しかし、「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」は同+1.5%となっており、あくまで現在の物価上昇は外部要因によるものが多く、私たちの購買力が高まり需要が価格を押し上げるような状況にはありません。

そのような観点からすれば、ウクライナ戦争がいつ終わるのかなど、外部要因次第ではありますが、すでに米国をはじめとして物価上昇がピークアウトした可能性もあり、日本でも夏頃には物価上昇が一段落するのではないでしょうか?

悪い円安論の真偽とは

つぎに2022年で話題にあがったのは円安です。2022ユーキャン新語・流行語大賞のトップテンの一つに「悪い円安」という経済用語が選ばれたことに驚きました。2022年初は1ドル=115円前後の水準でしたが、一時は1990年以来約32年ぶりに1米ドル=151円まで米ドル高・円安が進みました。円安にはメリットとデメリットの両方があるのですが、今回の円安局面ではコロナ禍における水際対策の影響によって、円安のメリットの1つである訪日外国人観光客の増加という恩恵が受けられなかった一方で、新型コロナウイルスやウクライナ戦争の影響で資源価格が上昇する中で、日本にとっては円安によって輸入価格がさらに高くなってしまうというデメリットが強調されてしまったことから、「悪い円安」論が跋扈したのでしょう。

それでは、この円安はどこまで続くのでしょうか。為替の変動要因には複数の要因が絡んでいるため、これだけが原因であるとはいえないのですが、過去のデータから考えれば、ドル円相場の動向には日米間の金利差が大きく影響していると考えられます。

米国はインフレを抑制すべく2022年は異例のペースで利上げを継続してきましたが、いよいよ景気の減速が明確になってきており、来年は年央辺りで利上げを停止し、場合によっては年末頃には利下げに転じるでしょう。一方で、日本では4月に日銀の黒田総裁の任期が満了し、後任へと引き継がれます。

中央銀行の金融政策は政治や世論とは独立しているはずではありますが、新総裁のもとで物価上昇を理由に金融緩和の解除、そして利上げが実行されるのであれば、2023年は日米間の金利差が縮小することから円高方向に動く可能性が高いと考えます。

いまが政府の出番だが…

賃金が上がらない中で物価だけが上昇するのはよいことではありませんが、これまで長らく物価が上昇しないといわれてきた日本において、国民の多くが今よりも将来の方がモノの値段が上がっていくという認識に変わってきたことはよいことであると考えます。

将来モノの値段が上がると予想するのであれば、いま買った方がいいと考える人が増えるでしょう。そうなれば一時的に需要は高まります。しかし、消費の原資となる賃金が上昇しなければ、それは長続きしません。そこで、家計が節約をし、企業がコストカットに走ってしまう前に、政府がよいインフレスパイラルを生じさせられるように手を打つ出番が来たのです。具体的には財政政策ということになります。財政政策と聞くと、公共投資などで橋やダムをつくることをイメージするかもしれませんが、消費減税など税率を変更することも財政政策の1つです。

たとえば、よいインフレスパイラルが生じるまでは政府が消費減税をして家計の購買力を向上させ、企業の賃上げが浸透していくことを待つことも可能です。しかし、ここ最近の報道では増税の話ばかりが出ています。これでは将来の負担増を警戒し、家計の節約傾向が加速してしまいます。

カオスを活用した再建策

さて、2023年は物価上昇や円安の進行に歯止めがかかると書きましたが、それでは日本経済復活のカギは何なのでしょうか。コロナ禍やウクライナ戦争によって、世界経済が大きく変動しつつあり、一種のカオス状態になっているからこそ、私は日本にとってチャンスだと考えています。

たとえば、円安の進行に歯止めがかかるとはいえ、依然として円安の水準にはあるので、これを機に海外に出ていってしまった企業の生産拠点を国内回帰させること。これによって、国内の供給能力が高まるだけでなく、新たな雇用も発生します。しかし、その場合は高すぎる電気料金に手を打たなくてはいけません。そうなれば、日本が現時点で保有する発電能力をどのように活用するか、つまりは原発の再稼働なども含めて政府は議論を進めなければならないでしょう。

これまでは安価な労働力を目当てに世界中の多くの企業が中国に生産拠点を作ってきましたが、強硬的なゼロコロナ政策も含めて、チャイナリスクが一気に浮上してきました。この結果として、海外に出ていった日本企業の国内回帰だけでなく、中国にあった海外企業の生産拠点を日本に誘致することも考えられます。

世界経済が大きく揺れ動き、様々なところで再編が行なわれるカオス状態だからこそ、これまで世界経済における存在感を小さくし続けてきた日本が再び存在感を示すことのできるチャンスが訪れていると考えられるのではないでしょうか。

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