2023年に起こりうるFXトレードの「間違い」、トレンド転換に潜むリスクとは?

2022年は、1990年以来となる約32年ぶりに1米ドル=150円を越えるなど、記録的な米ドル高・円安が展開しました。とくに3月から10月にかけては、円より金利の高い米ドルがほぼ一本調子で大きく上昇したので、米ドル買い・円売りトレードは、「2022年の投資行動において最も利益を上げた取引」との指摘もありました。

ただそういった中でも、あまり利益を出せなかったり、逆に損を出してしまったりといった具合に、FXトレードにおける「間違い」の例はあったようです。今回は、2022年のFXトレードの「間違い」を振り返りながら、さらに2023年に起こりうる「間違い」についても述べてみたいと思います。


2022年の「間違い」の理由

2022年の米ドル/円は、1米ドル=114円程度での取引スタートとなりました。しばらくは小動きが続きましたが、3月から大きく米ドル高・円安方向へ動き出すと、10月には1990年以来の150円を越えるところまで記録的な米ドルの上昇、円の下落が展開するところとなりました(図表1参照)。

為替相場は上がったり下がったりするのが基本ですが、2022年は3月から10月にかけて大きく米ドルが反落することもなく、30円以上もの米ドル急騰が展開したわけですから、知り合いに「相当利益が出ただろう」と聞いてみたところ、「それほどでもないよ」と言うのです。

どうやら謙遜しているようでもなさそうなので、さらに「どうして?」と聞くと、「いざとなるとすぐに利喰いしちゃって。それに相場の動きが早すぎて付いていけなかったり……」とのことでした。

気持ちは分かります、最初から30円以上も米ドルが上昇すると分かっていたら、買った米ドルをすぐに「利喰い」で売るなんてことはしないでしょう。しかし、30年以上ぶりの記録的な米ドル高が起こると予想するのは「天才技」であり、「普通の人」なら経験上、すぐに「もう米ドル高もここまでだろう」と思いがちで、せっかくの歴史的大相場のチャンスをみすみす逃すといったことになってしまったかもしれません。

ただ、そこに敢えて「間違い」と指摘できることがあるとすれば、米ドルの「割高」リスクの見極めではないでしょうか。

2022年3月の1米ドル=115円程度の米ドルと、10月150円程度の米ドルでは「割高」の程度に大きな差があるのは想像できるところでしょう。もちろん、115円より150円の米ドルは割高ということです。

基本的には、「割高」の程度が大きいほど、何かの拍子でそれが修正に向かった場合の下落リスクが大きくなるため、買っていた場合は損失が大きくなります。このため、米ドルの場合でも割高の程度が大きくなるほど、何かの拍子でその修正が本格化することで大きく下落するリスクが高まるため、買う場合には損失を限定化するための工夫として、小まめな利益確定の必要性が高まるでしょう。

115円と150円を比較すると、150円の方が割高であることは誰でも分かるでしょう。ただし、割高と言えるのは150円まで米ドル高になったからこそであり、米ドル高の途上においては、115円でも既に米ドルに割高警戒感を抱く可能性はあったでしょう。そもそも、上述の知り合いが「いざとなるとすぐに利喰いしちゃった」のは、米ドルは既に十分割高かもしれないと、無意識のうちに感じていたからではないでしょうか。

そこで、割高の程度について、感覚ではなく、客観的な目安があれば、米ドル買いも判断しやすかったのではないでしょうか。図表2は、米ドル/円の過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率を2022年3月までについて見たものです。グラフが上に伸びるほど、米ドルの割高懸念が強くなりますが、1米ドル=115円程度で推移していた2022年3月はプラス10%程度でした。過去には同かい離率がプラス30%まで拡大したこともあったことを考えると、115円程度の米ドルはとくに割高懸念が強いというほどでもなかったでしょう。

図表3は、同じ5年MAかい離率を2022年11月まで伸ばしてみたものです。これを見ると、10月に150円程度まで米ドル高となったところで、同かい離率はプラス30%以上に拡大、1990年以降では最も割高懸念が高くなっていたことが分かるでしょう。

2022年のFXトレードの「間違い」の典型例は、11月以降米ドルが急落に転じたところで、それまで積み上げてきた利益が吹き飛んでしまったといった類が多かったようです。それは、図表3が示していたように、150円まで米ドル高となったところで、米ドルの割高リスクはかなり高くなっていたわけですから、小まめに利益を確定するなど、何かの拍子に割高修正が本格化し、米ドルが大きく下落することで損失が拡大することを限定化する工夫をしていなかったことが原因だったのではないでしょうか。

整理すると115円とか120円程度では、まだ米ドルはそれほど割高懸念が強くなかったので、利益確定を焦る必要はなかったのでしょう。一方で140~150円にもなると、さすがに米ドルはかなり割高懸念が強くなっていたので、今度は逆に利益を確定しないままだと、急な下落でせっかくの利益が吹き飛んでしまいかねなかったわけです。

2023年に起こりうる「間違い」とは?

さて、11月以降米ドル/円はそれまでから一変し、大きく下落に転じました。今回の米ドル/円の上昇は、2021年1月102円から始まりましたが、2022年10月151円まで上昇トレンドが続く中では、過去120営業日の平均値である120日MAにサポートされてきたものの、11月以降の米ドル急落で、そんな120日MAを大きく割り込んできました(図表4参照)。これまでの上昇トレンドにおいてなかった現象が起こったということは、下落トレンドへ転換したことを示している可能性があるでしょう。

米ドル高・円安は、2022年10月の151円で終わり、米ドル安・円高トレンドに転換したとなると、その相場で利益を出すためには、これまでの米ドル買いから米ドル売りに転換する必要がありそうです。

米ドルは円より金利が高いため、米ドルを買うことは金利差、これをFXではスワップポイントと呼びますが、この金利差も収入となるのに対し、金利の高い米ドルを売るとなると、逆に金利差は支払いになってしまうということです。それでも、米ドルが大きく下落するようなら、スワップポイントの支払いは手数料のような感覚にできるかもしれませんが、米ドル安・円高へトレンド転換した可能性があるにもかかわらず、意外に米ドルも下がらないという状況が続くような場合は、高い金利の米ドルを売ることに伴うスワップポイントの支払いもきつくなるかもしれません。

私は、米国が2023年も大きく金利を下げるかはまだ微妙な状況の中では、意外に米ドルも下落せず、高い金利の米ドル売りが「間違う」といったリスクにも注意が必要ではないかと考えています。

© 株式会社マネーフォワード