ありふれた風景見つめる マヌエル・フランケロ版画展 29日まで県美術館

日常の風景を収めた写真を版画にした作品が並ぶ会場=長崎市、県美術館

 現代スペインを代表するアーティストで、細密描写の絵画や写真で知られるマヌエル・フランケロ(1953年~)の版画の展覧会が長崎市出島町の県美術館で開かれている。身の回りのありふれた品物をモノトーンで記録して世界を解釈しようと試みた14点が並ぶ。29日まで。
 フランケロは南スペインの港町・マラガに生まれ、現在はマドリードを拠点に活動。リアリズム画家として評価されてきた一方、1980年代から90年代初めまでは絵画、2000年代は素描、その後はデジタルカメラによる写真へと表現方法を変えながら創作を続けてきた。
 スペイン美術の作品収集を行う同館は11年度にフランケロの素描作品を収蔵。20年に開催を予定していた展覧会が新型コロナウイルスの影響で延期となる中、フランケロ自身が版画作品の展覧会を提案し、今回実現した。
 展示している版画シリーズ「モノの言語」は02年の制作。フランケロはその10年前から自身のアトリエにあるさまざまなものをポラロイドカメラで定期的に撮影しており、写真の劣化を防ぐために版画に仕立てた。
 和紙に刷られているのは剥製の鳥や飾り棚の上に何げなく置かれた新聞、古い機械など、特別でないものばかり。展覧会を担当する同館の森園敦学芸員は、重要なモチーフを手前や中央に描くなど従来の描き方へのアンチテーゼであり、世の中の全てのものが対等であることを伝えていると解説する。「日常のありふれた風景を綿密に見つめると、何か意味を見いだせるという考え。哲学者がアーティストをしているようだ」と話す。
 いかに現実に迫るかを追求する細密描写から写真へと、大胆にスタイルを変えてきたフランケロの画業。森園学芸員は「(常識を)意に介さず描きたいことを忠実に表現してきた。マルチな才能に触れてほしい」と話した。

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