「同じ主張の繰り返し」「なぜ差別する」 被爆者認定を否定 被爆体験者ら怒り、落胆

 「被爆者と認めて」という被爆体験者の願いに国は「対象とすることはできない」とノーを突き付けた。「従来と同じ主張の繰り返し」「なぜ差別するのか」。県の専門家会議がまとめた報告書に対する国の見解が公表された17日、被爆体験者から怒りや悔しさ、落胆の声が上がった。
 「私たちが言うことはうそですか」。国の指定地域外で長崎原爆に遭った「被爆体験者」が被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の原告団長、岩永千代子さん(86)はやるせない表情を浮かべた。最初の提訴から15年余。最高裁で敗訴した後も再提訴し、仲間が次々とこの世を去る中、希望を見いだしたのが広島原爆の「黒い雨」を巡る2021年7月の広島高裁判決だった。
 高裁判決は「黒い雨」を浴びた原告全員を被爆者と認定。国は新基準を策定し昨年4月から運用を始めたが、長崎の被爆体験者は最高裁で敗訴していたため除外された。これを受け、県は専門家会議を設置し、同7月に公表した報告書では「長崎の被爆地域外でも黒い雨が降ったと客観的に認められる」などと指摘。県と長崎市は被爆体験者を被爆者と認めるよう国に働きかけ、岩永さんは国の見解を心待ちにしていた。
 「なぜ、広島と分断して差別するのか」。結果を聞いた岩永さんは失望感をあらわにした。
 国が県に見解を回答した16日、長崎地裁であった同訴訟の本人尋問。「たくさんの灰が落ちてきたのが目に焼き付いている」。原告の濵田武男さん(83)は爆心地から8.3キロの旧西彼矢上村の自宅近くで降灰を目撃したことや、これまでに白内障や皮膚がんを患い手術を繰り返したことを証言した。国の見解に「私たちは事実を述べているだけ。腹立たしい」と険しい表情を浮かべた。
 被爆体験者でつくる別の団体「長崎被爆地域拡大協議会」事務局長、山本誠一さん(87)も「広島高裁判決で波紋が広がり、新たな会員も増えていた。厳しい内容だ」と悔しそうに話した。
 長崎市原爆被爆対策部調査課は「今までの枠組みを超えない見解。被爆体験者に寄り添った姿勢を示してもらえていないことを遺憾に思う。あきらめることなく、県と連携しながら、国の回答を精査し、引き続き被爆体験者の救済に向け協議したい」とした。


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