迷惑動画の被害店「許せない」売り上げにも影響、対策の動きも

客席に常備していた湯飲みなどを、客ごとに取り替える店員。一部店舗で試行中という=17日午前10時25分、宇都宮市西川田町

 大手回転ずしチェーンなどの飲食店で客が迷惑行為を行い、動画が交流サイト(SNS)で拡散されている問題で、栃木県内の飲食店も対応に追われている。県北の飲食店では、客がつまようじを使ってケースに戻す行為を繰り返す動画が拡散された。社長は「店の努力を一瞬で水の泡にされた。許せない」と憤る。13日に県警に被害届を出し、県警が捜査している。予防策として、食器などを卓上に常備せず客ごとに取り換える試みをする飲食店も出ている。

 県北で飲食店を経営する社長がSNSでの“炎上”を知ったのは昨年9月。知人からの連絡がきっかけだった。SNSの投稿動画を確認すると、男性客がつまようじを使い、ケースに戻す行為を繰り返していた。すぐに自分の店だと分かり、警察に相談した。

 今年2月上旬、大手回転すしチェーンでレーン上のすしに勝手にわさびをのせる動画などがSNSで拡散。これらをきっかけに沈静化していた昨年9月の動画が再炎上し、新たに店を特定する書き込みもあった。

 店には問い合わせが相次ぎ、売り上げも減少した。

 対策として、つまようじは割高な個別包装に切り替えた。「ただでさえ新型コロナ禍で苦しいのに」「店が何をしたというのか」。社長は取材に対し涙を浮かべ怒りや悔しさを口にした。

 被害は生じていないが、元気寿司(宇都宮市)は2月上旬から、従来は客席に常備している湯飲みや小皿などを客ごとに取り換える方法を県内外で運営する6店舗で試している。担当者は「手間はかかるが、お客さまの安心安全を守るために必要なこと」と強調した。

 県内で飲食店14店舗を展開するチームバリスタ(宇都宮市)の広報担当者は迷惑行為を「防ぎようがない」としつつも、「お客さまを信頼している」と話す。従来通りの営業を続けるが、被害が発生した場合は相応の対応をする考えだ。

 県内の弁護士は、迷惑行為の実行や撮影、投稿は共同行為として捉えられ、業務妨害罪などの刑事責任を問われたり、損害賠償を請求されたりする可能性があることを指摘している。

迷惑動画の投稿、どうして

 迷惑行為の動画を交流サイト(SNS)に投稿してしまう心理状況について、社会心理学が専門の白鴎大教育学部の玉宮義之(たまみやよしゆき)教授(45)は「将来生じ得る社会的な罰よりも、すぐに得られる『いいね』などの反応を重視してしまう衝動性がある」と分析する。

 直感的な投稿ができ、素早い反応も返ってくるSNSは「承認欲求を強く満たす」と説明。ネガティブな内容の方が注目を集めやすい性質があり、社会的規範を逸脱したことを「武勇伝自慢」としてエスカレートさせてしまうという。

 一方、玉宮教授は動画を見る側に対し「反応しないことも大切」と注意も呼びかけた。

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