「冷静に議論を」長崎の被爆者 『露の新START履行停止』 核軍縮逆行 懸念の声

 ロシアのプーチン大統領が表明した米ロ間唯一の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止。ロシア外務省は、条約が定める核兵器の数量制限などは今後も順守を続けるとの声明を出したものの、長崎の被爆者からは22日「冷静に議論して」「正常化を」と懸念や不安の声が上がった。
 長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(82)は「両国が知恵を出して結んだ条約。感情的にならず、他国も仲立ちして条約を取り戻して」と訴える。ロシアのウクライナ侵攻や核使用の威嚇で米ロ対立が深まる中、「侵攻や対立が続けば条約を延長できず(2026年に)期限切れの恐れもある」と不安視した。
 核実験への抗議活動を続ける被爆者の山川剛さん(86)は「核軍縮に逆行し一層緊迫化する」と非難。日本政府や岸田文雄首相に対し「唯一の戦争被爆国として、両国と交渉し『核を使わない』と約束させてほしい」と求めた。
 長崎大核兵器廃絶研究センターの吉田文彦センター長は、ロシアがミサイル発射実験の事前通告などは続ける意思を示したことを踏まえ「核戦争につながる事態は避けつつ、条約に縛られない核大国になるという意思の表れだ」と分析。その上で「条約が弱体化し、相互に不信感が募るのは間違いない。当面は核不使用を継続しながら、状況の変化をつくるため知恵を絞るしかない」と指摘した。


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