愛野・小浜バイパス構想 雲仙市の人口流出歯止めに期待 「富津防災」足掛かりに

のり面の補強対策が続く国道57号の富津地区=雲仙市小浜町

 「僕が住む南串には大きな病院がありません。大きな病院へ行く道も1本しかなく、通行止めになれば助かる命も助かりません」-。2017年8月、雲仙市南串山町であった「未成年の主張」大会。当時、市立南串第二小3年だった西舜宥(しゅんゆう)さん(14)=南串中2年=は住民を悩ませている道路の課題を発表した。
 舜宥さんがいう道とは、南串山-愛野の国道。乗用車や救急車両、農産物の運搬車、観光バスなどが行き交う基幹道路だが、迂回(うかい)路が少ない上に狭い。特に、国道57号の千々石-小浜間の富津区間(千々石町木場交差点-小浜町山領交差点、約3.2キロ)は橘湾に沿って、見通しの悪いカーブが続き、土砂災害や交通事故のリスクが付きまとう。
 「愛野-小浜間の国道57号の代替道が必要」。そんな機運が高まったのは1999年。島原市と旧南高16町は「愛野・小浜バイパス建設促進期成会」を発足させたが、実現への道筋はなかなか見えなかった。
 転機を迎えたのは2021年8月。大雨で富津地区ののり面が崩壊し、同年末まで交互交通規制が続いた。代替道路の必要性に迫られたのを受け、国は本年度、千々石-小浜間の代替道「国道57号富津防災」を事業化。現在、延長3.4キロ(うち1.8キロがトンネル)で、用地測量と地質調査が進む。市と市議会は富津防災の早期完成を足掛かりに、愛野、小浜各方面への延伸といった同バイパスの建設促進に注力する。
       ■
 約6年前の舜宥さんの主張のきっかけは、父親の急病。真言宗温泉山一乗院の住職、泰仁(たいにん)さん(52)が訪問先の福岡市内のホテルで心筋梗塞を起こし、近くの病院で緊急手術を受けて一命を取り留めた。
 「もし南串山に居たら、病院に間に合わずにきっと死んでいた」。周りの大人たちが話しているのを聞き、「怖くなり、みんなに伝えなきゃと思って」と舜宥さん。泰仁さんも「道路1本でいろいろなことが変わる。バイパスは地元の関心事」と力を込める。
 旧町合併で雲仙市が誕生した2005年、南島原市に近い南串山町の人口は約4500人だったが、今年1月には約3500人まで減少。一方、諫早市に接する愛野町は約5200人から約6千人に増加。泰仁さんは「南串山から愛野方面へ引っ越す世帯も増えていると聞く。バイパスができて通勤圏が広がれば、人口流出に歯止めがかかるんじゃないか」と期待する。

富津防災と愛野・小浜バイパスの区間イメージ

       ■
 雲仙市は本県を代表する農業生産地。青果を本州へ出荷する物流面でも同バイパス整備を望む声は大きい。市内の農産物運送会社の男性(48)は「運転手の拘束時間を減らし、定期的に休憩時間を設ける働き方改革を進めているので、効率的な運送計画が求められている。渋滞での時間ロスは命取り」と強調する。
 小浜や南串山で大型トラックに野菜を積み込み、高速道のインターチェンジがある諫早市に向かう場合、富津地区の国道渋滞が長引けば、小浜温泉街から雲仙温泉街に上り、市北東部の国見方面に下る“大迂回”を強いられるケースも。通常より1時間以上を要し、燃料費もかさむ上に、重い荷物を積んだ大型車両で長い坂を下るとブレーキに負荷がかかり、事故の危険も増すという。
 男性は「燃料費が高騰し、運送料金を引き上げしたいが、農家にしわ寄せがいくのでできない」とも漏らす。「課題は多いが、交通環境の整備が進めば運転手も会社も余計な負担が減って助かる。走りづらい(富津地区の)道路渋滞が減るし、何よりも事故自体が減るはずだ」


© 株式会社長崎新聞社