『基地問題』懸案動かせず 方針に「評価」も <検証・佐世保市政 朝長市長4期16年③>

基地を巡る主な動き

 「日米間の合意から11年が経過したが、具体的な施設配置の内容もいまだに明かされない」。昨年9月、佐世保市議会一般質問。市が基地問題の重要課題とする「佐世保弾薬補給所(前畑弾薬庫)の移転・返還」について追及した地元議員は、先行きが見えない現状に不満を示した。
 佐世保港は日米地位協定に基づき、約8割が制限水域で、岸壁などの主要港湾施設が米軍へ提供されている。歴代市長は商港の発展を妨げるとし、国に返還を要求。1971年に「返還6項目」、98年には修正した「新返還6項目」を掲げ、基地と共存共生する形での「すみ分け」を目指した。
 市長の朝長則男(74)もこの流れを継承。返還や一部返還、基本合意など4項目が前進した。ただ、前畑弾薬庫返還は2011年の日米合同委員会で基本合意しながらも停滞。市は跡地利用構想をまとめるなど「外堀は埋めている」(市幹部)が進展はない。
 「国や米側の情報が少ない。中央とのパイプが細いのでは」。同市で米軍の動向を監視するリムピース編集委員の篠崎正人(75)はこう指摘。前畑弾薬庫返還の道筋をつけた元衆院議員で前市長の光武顕(91)は、長崎県選出の防衛庁長官(当時)で旧友の久間章生(82)と政治力で動かした。
 朝長も国会議員らと打開を図るが、ある市関係者は「専門性が高い基地問題は議員によって関心に濃淡がある。パートナーに恵まれなかった面もある」とみる。
 一方、地元経済界は基地政策を評価する。市は22年に返還の根拠とする佐世保港長期総合計画を廃止し、新たに市基地政策方針を策定。第一に「国の防衛政策推進への積極的な協力・支援」を打ち出した。
 そこには防衛予算を地域経済の浮揚につなげる狙いが透ける。市によると、市内では自衛隊関連で毎年800億円以上が投じられ、米軍側の支出を加えた経済波及効果は1千億円前後と推定される。佐世保商工会議所会頭の金子卓也(79)は「市長は基地と経済の関係を重視している」と支持する。
 朝長は新たな防衛施設も好意的に受け入れた。18年、陸自相浦駐屯地に水陸機動団が新編。崎辺東地区では大型艦船係留施設の整備が進む。
 もともと「すみ分け」は基幹産業の造船による港湾の活用が前提だった。だが、22年に佐世保重工(SSK)が新造船から事実上撤退。産業が衰退する中、「(朝長は)現状との乖離(かいり)を修正した」と自民市議は言う。
 一方、国が防衛力を強化する背景には、軍事的な存在感を高める中国や北朝鮮による東アジア情勢の緊迫化がある。「市長は国策にぶらさがっているだけ」と社民市議は指摘する。防衛予算は国際情勢などに左右される。市民の間には地域経済の「基地依存」が強まることを懸念する声もある。=文中敬称略=

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