ビジネスパーソンが陥りやすい、自分の仕事の“もやもや”を解消する方法

「自分の仕事は一体誰の役に立っているのだろうか?」「自分がいなくなっても、代わりはいくらでもいるだろう……」そんな、自分の仕事に対する“もやもや”を抱えたことはないでしょうか?

リクルート全社マネジャーMVPを2度受賞した井上功 氏の著書『CROSS-BORDER キャリアも働き方も「跳び越えれば」うまくいく 越境思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・編集して仕事や部署の“もやもや”を解消する方法を紹介します。


自分の会社の情報を収集し、自社の"今"を確認する

自分の仕事に対する「もやもや」は誰にでもあります。まず、仕事の母体となる会社についてみてみましょう。

自社に関する代表的なPR(PublicRelation)物を読むことは、企業内越境の手法のひとつといえます。会社のホームページはもとより、多くの会社で公開している中期経営計画や事業戦略の類は熟読するべきです。そこには、自社の〝売り〞や選択と集中の領域・テーマが間違いなく記載されているからです。上場企業であれば、有価証券報告書は提出義務がありますので、これも必読です。戦略の要諦を知ることができます。

学生向けの入社案内であれば、更にポイントを絞って自社の特徴を纏めている筈です。そこに登場する先輩社員は会社を代表する人なので、彼らにアクセスして、直接話をもちかけてみることもおすすめです。

企業は社会の中で存在し、関係者(ステークホルダー)とのコミュニケーションで成り立っています。株主総会や記者会見等では、直接的な対話が成されますが、関係者は多くかつ多彩です。近年は益々企業の社会的責任が問われていますが、関係者との説明責任をきちんと果たす圧力が高まっているので、PRに力を入れる企業は多いです。故に、PRの中に自社の事実があります。PR物を活用し、 自分の会社の強みや顧客価値の根幹は何かを熟知し、今の仕事や自部署がどうつながっているかを考えることは、ひとり企業内越境といってもいいでしょう。

僕が入社して1年後、リクルート事件がおきました。自分が起こしてしまったことが、マスコミから発信されました。びっくりや、ガッカリもありました。以来、自社から発信されること(PR)を注視するようになりました。社会に対して、自分の会社は何をどう伝えようとしているのか? その根底の考えは? 企業内越境としてはかなり特殊な状況でしたが、自分と会社をつなげて見られるようになりました。

研修に参加し、自分を高め、つながりをつくる

次は仕事から少し離れた非日常の場を想定してみましょう。例えば、研修。これも立派な越境です。研修はほとんどがクラス単位で実施されます。コロナ禍により、オンライン会議ツールでの実施も一般化していますが、そこでもブレイクアウト等でのグループ議論がごく普通に行なわれています。その場は正に企業内越境ということができます。

会社によって研修の体系や実施対象、実施形態はさまざまですが、研修の対象者を決めるかたちには、階層別、選抜型、公募の3種類があります。階層別は新人研修や管理職研修など、対象の階層の人たちが全員受けるものです。選抜型は、いわば選ばれた人が参加するもので、次期経営者を育成する研修などがあります。

注目すべきは公募の研修です。自分が公募の対象であれば、いつ募集し、どんな研修で、何を学ぶことができて、どんな人たちが参加する(参加しそうな)研修なのかを、人事部や募集部門に詳しく聞くべきです。その際、過去に同様の研修に参加した受講者に話を聞くのもいいでしょう。特に、講師から得た刺激や学びは何か? 受講者との議論で一番驚いたことは何か? 何が研修前後で変わったか? 研修で出会った仲間との交流は続いているか? 等を聞くと、研修での越境感を感じ取ることができます。

研修は半日や1日の短時間のものもありますが、断続的に何日間かで実施され、その間に受講者同士が議論したり、何かを創りあげたりするフィールドワークがあるアクション・ラーニング型のものもおすすめです。受講者同士のつながりがより深まり、議論を通じて越境感が醸成されるからです。

僕は30代半ばで、選抜型の研修に派遣されたことがありました。3つの事業本部から派遣された同世代の12名が侃侃諤諤議論しながら、自部門の戦略を再構築する、という内容でした。部門が異なると顧客価値や収益モデル、意思決定の基準などが大きく違っていました。そのときの衝撃は今も忘れられません。

自分の仕事の前後を巻き込み、提供価値の根幹を知る

仕事自体を俯瞰して気づくことがあります。仕事はつながりでできているのです。

企業は組織で成り立っています。皆さんも何かしらの部署に所属していると思います。仕事はひとりでは完結しません。関係者各々の役割があります。役割が連なって顧客に対して価値を提供し、対価を獲得しています。 ここで紹介する企業内越境は、他部門の仕事への興味・関心を持つということです。

まず、自部署を真ん中に据えて、バリューチェーンを考えます。自部署の前後にどんな組織や仕事があり、どのように価値が高まっているのか? どんなコミュニケーションが執り行われているのか? お客様は最終的に何を買ってくれているのか?

そして、自部署とバリューチェーン前後の部署とのつながりに改善の余地がないかを考えてみます。今までのやり方でいいのか? こうつなげると更に価値が高まるのではないか? この工程は省いた方がいいかもしれない。そんな新結合に関する議論を、前後の部署の人たちとしてみてください。自部署という境界を越境し、お客様目線で仕事の流れを見直すと、今まで気づかなかった視点や、考えもしなかったことが手に入ります。

僕は今に至るまでずっと顧客接点を担保しています。つまりは営業です。営業は「業を営む」、つまり事業の根幹です。具体的にはお客様に対してissueraising(課題設定)をして、解決策を提案し、選んでもらい、解決策を実行し、当初の価値を提供して対価を得る、というものです。今は営業して自ら納品することが多いですが、実際の価値提供者が異なることも多かったです。〝売る〞人と〝つくって納める人〞が異なっていた訳です。

もう四半世紀以上前になりますが、営業と制作の部署が一緒になり議論する機会がありました。そのときに、制作の人たちから言われた一言が強烈でした。「井上は売りっ放しだから、ホント困る……」。自分の仕事の捉え方が余りに狭く、お客様に対する提供価値の本質を考えたことがなく、ダメな自分を思い知りました。以降は自分の仕事を部分ではなくつながりで捉えるように心掛けています。

他部門への理解を深め、会社の重層感を味わう

自分の仕事を横に置いて、自社内の他部門や他部署に興味を持ってみましょう。

まず、他部門の同期や、以前一緒に仕事をしていて異動した先輩などを探してみてください。できれば、社内でも注目されている部門がいいと思います。そして、彼らに、普段どのような仕事をしているかを尋ねるのです。聞く内容は次のようなことです。

・自部門と他部門の違いは何か?
・特に各々の顧客と顧客に提供している価値他部門の強さや注目されている理由は?
・普段から仕事をする際に心掛けていることは?
・仕事でのモチベーションの源泉は?

他部門から聞くことができた話を俯瞰して考え、自部門に参考・導入・援用できそうなことをイメージします。

そして、それらを自分の部署のキーパーソンに話してみてください。社内のいいところは真似しましょう、ということです。なるほど! が沢山手に入るはずです。

1986年に入社して以来10年程度、僕は顧客の新卒採用を支援する部門で営業していました。その間、バブルとバブル崩壊がおきました。インターネット時代の到来による紙メディアの急激な衰退と、資本構成の変更という外部環境の激変も経験しています。

このうち、バブル崩壊は、顧客のニーズを根底から変えました。新卒採用をストップする企業が多発したのです。お客様が採用しないと、当然ですが採用支援の仕事はできません。そこで、虚心坦懐に顧客ニーズを訊いて、採用以外の人材マネジメント、特に人材開発(人材教育)の要望があることを掴みました。そのとき行なったのは、自社のHRD(HumanResourcesDevelopment)部門への越境です。

採用はストップしていましたが、所属社員の育成課題はあったのです。他部門に越境して協働し、採用業務以外の提案を強化したことが、今の自分につながっています。

ドラフト制度を利用し、自分のキャリアを拡張する

本格的に次のキャリアを目指したいけど、転職はハードルが高いと思っている人も多いでしょう。そんな人には社内公募がおすすめです。

働き方改革が日本企業を席巻しています。以前はごく当たり前だった転勤や、単身赴任さえなくした会社があります。人事異動も強制力が薄まりました。近年は、社内で人材を公募する制度を導入している企業が増えています。もし、このような人材ドラフト制度があれば、利用しない手はありません。企業によってその内容は異なると思いますので、制度の内容を熟知した上で、次の流れで越境することをおすすめします。

・人材を求めている(求めていそうな)部門や組織を探す
・同期、同世代のネットワークを最大活用し、当該部門の様子を確認する
・自分の経歴・経験や価値観等をふりかえる(Chapter1参照)
・人材を求めている部門の責任者に自分を売り込み、企業内越境を実現する

この企業内越境は、社内転職といってもいいかもしれません。 社内とはいえ、仕事の中身が大きく変わる場合は、ほぼ新人状態になることもあるでしょう。でもそれこそがポイントです。よく分からないことだらけが学習の基盤です。

一方、どこまでいっても同じ会社なので、共通の作法は見出せるはずです。そのときはほっとするでしょう。このドラフト制度を活用した企業内越境、チャレンジする価値はあります。

僕は2000年代の初頭、コンサルティング部門を立ち上げるという話を聞きつけ、社内人材公募制度にエントリーしました。その責任者は何名かのコンサルタントを社内で手当てしていましたが、チームに営業はいませんでした。今でも自分は営業だと自認しているように、営業には実績と自信がありました。経歴をまとめて応募し、コンサルティング部門への企業内越境に成功しました。HCソリューショングループといいます。そこでの11年間の仕事が、今の自分を形づくっています。

CROSS-BORDER キャリアも働き方も「跳び越えれば」うまくいく 越境思考

著者:井上 功
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