「平和とは何か 問いかける」谷津監督 中村哲さんの映画上映 アフガンでの活動を記録

故中村医師の人となりや魅力について語る谷津監督=長崎新聞社

 アフガニスタンなどで病や貧困の人々に寄り添い、干ばつの大地に用水路を建設した医師、故中村哲さんの活動を記録したドキュメンタリー映画「劇場版 荒野に希望の灯をともす」がこのほど長崎市で上映された。舞台あいさつに立った撮影・監督の谷津賢二(61)さんが長崎新聞社のインタビューに応え、映画や21年間に及ぶ取材で身近に接した中村さんの生き方などについて語った。
 中村さんは福岡県出身。1984年、パキスタンに医師として赴任した。2000年ごろから隣国アフガニスタンで大干ばつが顕在化。「病気の根元はきれいな水がないことと栄養失調」として大河から水を引く長大な用水路を陣頭指揮を執り建設した。
 谷津監督は日本電波ニュース社(東京)のカメラマン。中村さんの著書に感銘を受け、1998年に取材を始め、2019年まで計25回、約450日の現地滞在で千時間に上る映像を収めた。初回に同行した山岳地帯の巡回診療で「民族も宗教も違う人をなぜこれほどまで慈しむことができるのか」と大きな問いが残った。「その答えを知りたくて中村医師の背を追い続けてきた。他者を慈しみ正しく生きる『仁と義』の人だった」と話す。一方、オフの日には市販の風邪薬の飲み方を教えてもらいにくるなど、面白いエピソードも多かったという。
 用水路建設では土木の専門家はおらず、中村さんが独自に勉強や研究を重ねた。用水路が延びると干ばつの大地に緑が広がる。だが中村さんが取り戻したかったのはただの緑ではない気がしていた。
 19年12月、中村さんは同国で銃弾に倒れる。実はその年、最後の取材で中村さんと緑の見える丘に登った。そこには緑があるだけでなく、子どもの遊ぶ声や牛や鶏の鳴き声、小鳥のさえずりなどが聞こえ、「命の気配」を感じたという。「先生も『音がいいね』とおっしゃって、取り戻したかったのは人の営みだったことがこの時に実感できた」と振り返る。
 「平和は戦争のない状態と思う人が多いが、本当の平和は人々が助け合って暮らしていくこと」。映画には中村さんが著書などに記した言葉が随所に盛り込まれ、胸を打つ。「他者のためにどう生きるか。平和とは何なのかを問いかけてくる中村医師の生きざまをぜひ見てほしい」と語った。
 上映会は県映画センター主催。▽21日=アルカスSASEBO▽25日=諫早文化会館で。問い合わせは同センター(電095.824.2974)。

 【略歴】やつ・けんじ 1961年生まれ。栃木県足利市出身。日本電波ニュース社のカメラマン、プロデューサー。94年ルワンダ駐在。95~97年ベトナム支局長。98~2019年中村哲医師の活動を記録。

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