朝ドラ「舞いあがれ!」 五島ロケの舞台裏 住民ら300人エキストラ参加【ルポ】

五島最終ロケでは、撮影終わりにヒロイン舞役の福原遥さん(中央左上)の周りに人だかりができた=五島市、福江港岸壁

 東大阪と五島列島が舞台となったNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」が3月31日、最終回を迎えた。五島市では1月30日~2月1日の3日間に最終ロケが行われ、エキストラとして同市と新上五島町の住民ら約300人が参加。マスコミ役として声がかかった記者2人が、朝ドラの舞台裏を伝える。

■ネタバレ

3月30日放送の「空飛ぶクルマ」の見物客の親子に“取材”する記者(右)

 「ロケに参加しませんか」。1月下旬、同市の担当者から角村に打診があった。「ついに来た!」。うれしさと不安が半々だったが「行きます」と返答し、話の流れで前支局長の三代も便乗させてもらうことに。あるイベントを取材する記者役らしい。 ロケ初日の午前9時。福江港そばの五島港公園に、100人以上の島民が集まった。小学生の子どもを連れた地元旅館副代表の中本智章さん(43)が「こんな機会はなかなかありませんから」と声を弾ませる。
 撮影スタッフが拡声器で呼びかけた。「最終盤の重要なシーンで、島から島へ飛ぶヘリコプターのような乗り物が出てきます!」。ヒロインの舞が、島民が見守る前で日本初の電動小型飛行機のフライトに挑む場面だった。ただ、放送の2カ月前。唐突な“ネタバレ”に会場はざわついたが、スタッフは構わず続けた。「皆さんは俳優です! デートで見に来たのか、家族と来たのか。役になりきってください!」

■ほっこり
 現場の福江港岸壁に着くと、記者役用の腕章をスタッフに着けてもらった。「九州新聞」「毎報新聞」「東京放送協会」と架空の社名が記され、色もそれぞれ異なる。映るかも分からないのに芸が細かい。
 操縦席などが再現された模型の前で、スタッフがあおる。「皆さん、日本初の乗り物が目の前にあるんですよ!」。役になりきる市民に混じり、私たちも近くにいた人に“取材”。3回ほど同じシーンのテストを繰り返すと、マスクを一斉に外してポケットへ。「本番いきまーす」のかけ声で撮影していった。
 スマホの温度計は8度。海風が吹き付け、体感はもっと低い。スタッフや出演者らは計約100人。舞役の福原遥さんや祖母役の高畑淳子さんら出演者が入れ替わりながら、緊張感のある撮影が続く。1シーンごとにそばに設けた機材で丁寧に映像などをチェック。途中、出演者がマスクをつけたまま本番に入ってNGとなり、現場がほっこりする場面もあった。

■一生の宝
 撮影は夕方に終了。福原さんがお礼のあいさつをした。拡声器を握り、「寒い中、本当にありがとうございました。これからも応援よろしくお願いします!」と充実した表情で語ると、周りから大きな拍手が起きた。家族4人と参加した同町の自営業、川口秀太さん(41)は「数分のシーンをこれだけ丁寧に何度も撮影していくんだ」と感心。同市の主婦、大山愛由美さん(35)は「この場にいられるだけで幸せ。一生の宝物になる」と声を弾ませた。
 ロケシーンは3月30、31両日放送された。「空飛ぶクルマ」の見物に集まる人たちを取材する場面。三代が映り、角村はフライトを見守る人だかりの中にいた。精いっぱいの演技だった。この半年間、朝ドラで「五島」「長崎」というフレーズがこれほど登場したことはなかったと思う。温かい作品は、これからも心に残っていくだろう。いつか、本物の空飛ぶクルマが五島の空を行き交う姿を取材できたらいい。


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