「腹合わせ」も何も

 古代中国でも古代ギリシャでも、人の心、精神は心臓にあると考えられた。日本はどうだろう。腹ではないか、と作家の半藤一利さんはエッセーに書いている▲腹を割って話す、太っ腹、腹黒い、腹を探る…。腹と精神は関係が深く、人の心をよく言い表している、と。調べてみたら「腹合わせ」という言葉もあり「互いの心を合わせること、考えを前もって調整すること」の意味を持つ▲日本流の腹合わせは、時に外交の場で成果を上げた。2016年、当時のオバマ米大統領の広島訪問がその例だろう。舞台裏で日本政府は心を砕いたという▲大統領に先立ち、まずはケリー国務長官が広島原爆資料館を訪ね、下地をつくった。ケネディ駐日大使に力添えを頼み、願いを伝えてもらった。そのお膳立てをしたのが、広島を地元とする、当時の外相の岸田文雄首相で、心を尽くして念願かなった▲それから7年。「長崎へ」と政府が本気で働きかけているようには見えない。5月の来日に合わせ、バイデン米大統領が長崎を訪れる案が見送りになった。日程が合わないという▲長崎に来たいが来られないのか、取りたてて来る気はないのか。大統領の胸の内は分からないが、先例を見る限り、まずは日本政府が腹合わせに動かなければ何もかなわない。長崎は腹に据えかねる。(徹)

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