高速道路で「電欠」したら…EV1千キロの旅は不安の連続、普及へ見えた課題 東京から宮城まで、アウディの上位モデルで帰省してみた

 アウディの電気自動車(EV)「Q4 e―tron」

 2022年度の日本の自動車業界を振り返ると、電気自動車(EV)の話題に事欠かない1年だった。軽自動車のEVが発売されたり、EVで世界2位の中国メーカー比亜迪(BYD)が日本に進出したりした。ただネット上の口コミなどでは「EVに乗り換えるのはまだ早い」という声が多い。そこで、EVの利便性が現時点でどの程度なのか、筆者が自ら運転して検証した。

 EVに妻と1歳の息子を乗せて、東京都内から筆者の実家がある宮城県北部まで往復約1千キロを旅した。ガソリン車よりも静かでスムーズに加速する乗り心地の良さや先進性を感じた半面、一気にバッテリー残量を増やせる充電スタンドにはなかなか巡り合えず、「高速道路上で『電欠』したら…」と不安の連続だった。EV普及への課題が見えた。(共同通信=佐藤拓也)

 ▽充電スタンドの検索はアプリで簡単
 筆者が乗ったのはドイツのアウディの「Q4 e―tron」。アウディジャパンから取材用に借りたものだ。バッテリー容量は82キロワット時で、フル充電での走行距離は576キロと、日本で発売されているEVの中では上位モデルだ。往路は途中の福島県会津若松市で1泊し、復路は宿泊せず都内の自宅に戻る日程にした。

 EV充電器の場所を示すスマートフォンのアプリ「GoGoEV」の画面

 最初に心配になったのは充電スタンドが見つかるかどうかだ。ガソリンスタンドのように至る所にあるわけではない。そこでEV事情に詳しい取材先に聞くと、充電スタンドはスマートフォンのアプリ「GoGoEV」や「EVsmart」で簡単に検索できると教えてくれた。いずれも地図上に充電スタンドが示され、出力や利用時間も記載されているため分かりやすい。おかげで不自由なく、すぐに探すことができた。

 ▽「普通充電器」は頼りにならず
 3月17日午前11時ごろ自宅を出発。乗車時点でメーターに示された走行可能距離は400キロ程度だった。正午過ぎに到着した栃木県佐野市の東北自動車道佐野サービスエリア(SA)内の充電器には先に利用客がいた。まだバッテリー残量に余裕があったため、ここでは充電せず先に進むことにした。

 しばらく走り、栃木県那須町にある牧場で充電した。アプリによると、ここの充電器の最大出力は普通充電器に当たる6キロワット。息子のストレス解消がてら牧場を長めに散策し、この充電器で76分間充電した。

 出力が大きい充電器ほど短い時間で多くの電気をEVに蓄えられる。一般的に出力が20~50キロワットを超えるものは急速充電器と呼ばれる。

 これまで取材でEVを30分ほど運転した経験はあったが、充電したことはなかった。「1時間以上充電すれば、普通充電器とはいえ、それなりにバッテリー残量が増えるだろう」と高をくくっていたが、認識の甘さを痛感した。バッテリー残量は全く増えず「なぜこんなに頼りにならないものが設置されているのか」と、違和感すら覚えながら運転を再開した。そして福島県下郷町の道の駅にある出力20キロワットの充電器で30分間充電し、会津若松市内の旅館に着いた。

 福島県下郷町の道の駅にある出力20キロワットの充電器=3月17日

 ▽ガソリン車が充電可能な駐車スペースに
 旅館に到着した時点で走行可能距離は100キロを切っていた。この旅館に決めた理由は、EV充電器を備えていたためだ。寝ている間に満タンにして実家に向かおうと考えていた。だが、ここでも想定外の問題が起きた。充電する客が少ないせいか、EV専用駐車場はなかった。充電器のコードが届く駐車スペースには他の客のガソリン車が止まっており、充電を諦めざるを得なかった。

 翌朝、不安な気持ちのまま旅館を出た。まずは福島県磐梯町の磐越自動車道磐梯山SAで充電した。既に充電中のEVがあったが、このSAに到着した時点で走行可能距離は70キロ程度。このまま高速道路を走り続けるのはさすがに怖い。筆者が充電器のそばで待っていると、別のEVが並び始めた。充電器は1基しかない。焦りが募った。

 このSAの充電器は出力50キロワットで、急速充電器といわれるタイプだ。30分間の充電で走行可能距離を示すメーターは154キロまで増えた。だが実家まではあと230キロ近くあり、まだ足りない。その後、福島市内まで走ったものの適当な充電スタンドが見つからず、高速道路をいったん降りた。コンビニで30分間充電して戻り、福島県国見町の国見SAで1時間弱充電してメーターは241キロまで増えた。自宅までは残り120キロ程度で、難なく実家に着いた。

 ▽ポルシェ、アウディ、VWは急速充電器を共用可能
 約500キロ運転するのに要した充電時間は3時間半を超えた。充電中は牧場の散歩を除けば、昼食を取る以外やることがなかった。じっとしていられない息子が泣き始めるので、充電のたびに周囲を散歩し気を紛らわした。充電にこんなに長い時間がかかっては正直お手上げだ。

 今度は東京に帰るための電気を補充しなければならないが、宮城の実家にEV充電器はない。よく訪れていたコンビニに備えられていた充電器は出力が20キロワット。急速充電器の部類だが、1時間半の充電で100キロ分ほどしかたまらなかった。「使い勝手が悪い」。400キロ以上ある帰り道に対し、走行可能距離172キロで東京へ向けて出発することになった。

 出力が低い充電器は頼りにならない。高出力の充電器に狙いを定めて充電スタンドを探すことにした。EVで先行する米テスラは「スーパーチャージャー」という250キロワットの急速充電器の整備を進めているが、現時点でアウディなど他社のEVは利用できない。

 仙台市のポルシェ販売代理店にある急速充電器=3月20日

 アウディとポルシェ、フォルクスワーゲン(VW)の輸入車ブランドが連携し、オーナーに対しそれぞれの急速充電器を共用できるサービスを提供していることを思い出した。仙台市内のポルシェの販売代理店には出力90キロワットの急速充電器があった。ここでは40分程度の充電で走行可能距離が81キロから、343キロまで一気に回復した。次に福島県郡山市のVWの販売代理店でも30分弱の充電で100キロ分以上増えた。高出力の充電器のおかげで帰りは1時間程度の充電で済んだ。

 約1千キロの走行で電気料金がいくらかかったのかは、アウディジャパンから借りた充電用カードを利用したため分からなかった。アウディジャパンの広報担当者に相場を聞いたところ、今回乗車したEVでアウディの充電器を利用した場合、同じサイズのガソリン車と比べ5千円程度安く済む計算になるという。

 ▽政府は急速充電器の設置要件を緩和
 政府はEVの急速充電器の規制を見直す。出力が大きい200キロワット超の急速充電器の設置要件を緩和する。これまで200キロワットを超える充電器は変電設備扱いで、原則として運営者など特定の人しか扱えなかった。屋内では延焼を防ぐために不燃材料で区切る必要もあり、設置が困難だった。こうした規制を撤廃し、消防庁が10月に関係省令を施行する予定だ。

 海外ではより高出力の充電器を設ける動きもある。EV世界首位の米テスラは250キロワットの急速充電器の整備を進めている。テスラによると、モデルによっては5分間の充電で120キロの走行が可能になるという。充電時間が短くなれば、充電器がないマンションなどの住民でもEVが購入しやすくなる。

 ある輸入車メーカーの幹部は「日本には普通充電器はそれなりにあるが、充電が短時間で済む高出力の充電器が少ない。この分野の改善が進めばEVの不便さが解消される」と期待する。

 EVの充電器を巡っては、設備の更新費用などで採算が合わずに撤去する動きもあり、導入後の維持も課題だ。地図大手ゼンリンによると、国内のEV充電器は2022年3月末時点で2万9463基と、2020年3月末の3万320基から減少した。

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