宇都宮市新里町でワイン用のブドウを栽培し、醸造を県外に委託している「Hinoe(ヒノエ)ワイナリー」の代表吉村潔(よしむらきよし)さん(45)、慎子(のりこ)さん(43)夫妻が今秋、自分たちの手でワイン醸造に乗り出す。市内でのワイン醸造は初という。ブドウが育った風土で醸した宇都宮産ワインを造り、来年3月の出荷を目指す。地元食材を使う洋食店が増える中、吉村さんは「宇都宮の美食にマッチしたワインにしたい」と意気込む。
都内のIT関連会社に勤務していた吉村さんは、ワイン造りに憧れ、2009年に就農した。ブドウは植樹してから収穫までに4年以上かかるため、当初は原木シイタケや約100品目の西洋野菜を栽培し、生計を立てた。11年の東京電力福島第1原発事故でシイタケを出荷できなくなるなどの困難も乗り越え、15年からワイン用ブドウの本格栽培にこぎ着けた。
県内のブドウ農家から栽培方法の助言を受けるなどしたが、基本的には独学という吉村さん。「新里地区は雨が多く、ブドウが病気にならないようにするなど苦労した」と振り返る。
当初10アールだった栽培面積は現在1.5ヘクタールに拡大し、品種もメルロー、シャルドネ、ピノ・ノアールなど8種に増えた。19年からは山梨県の会社にワイン醸造を委託し、「Hinoeワイン」として販売している。
自分たちの手で醸造を目指す中、昨年、国の事業再構築補助金の採択を受け、6千リットルのワインを醸造できる施設を完備した。今年2月には醸造免許も取得。念願の醸造に挑むことになった。
ワインは、ブドウの生育地の気候や風土を生かす「テロワール」が重要な要素とされる。吉村さんは「メルローで造った赤ワインは赤みがやや薄い。それも宇都宮産ワインの個性」と説明。慎子さんは「地域の方に愛されるワイン、ワイナリーにしていきたい」と話している。