旧統一教会と「接点あり」の議員、90%超が当選 批判は強かったはずなのになぜ?4月の統一地方選を検証して分かった意外な実態 「データで読み解く政治」

本部が入るビルに付けられた「世界平和統一家庭連合」の文字=2022年9月、東京都渋谷区

 4月の統一地方選は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側と地方議員、とりわけ自民党議員の蜜月関係にスポットが当たる形で実施された。「接点」があるのは大半が自民党議員だったからだ。だが4月9日に投開票された41道府県議選では、自民党議員を含め接点を認めた立候補者の9割超が当選した。国民の強い批判があっただけに、やや意外な結果だった。旧統一教会問題は、選挙に本当に影響しなかったのだろうか。得票や当選者に関するデータなどを検証すると、批判票に苦しめられていたものの、落選せずになんとか持ちこたえていた実態が分かった。(共同通信統一地方選取材班)

※この記事は、記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」をお聞きください。https://omny.fm/shows/news-2/25

 ▽旧統一教会問題を選挙で「考慮する」は81%もいたが…
 まず、共同通信が昨年12月に報じた、47都道府県議らに旧統一教会側との「接点」を尋ねたアンケート結果を見てみよう。調査は昨年11月30日時点。現職と確認できた47都道府県議2570人と知事47人、現市長20人の計2637人を対象に計2479人(回収率約94・0%)から回答を受けた。議員については2570人中、2416人が答えた。うち334人が「接点がある」と認めた。接点を認めた議員のうち、83・5%に当たる279人が自民党所属だった。
 接点は旧統一教会の関連団体のイベント出席や役職就任などさまざまだった。過去に教団側の関係者から選挙の手伝いや支援をしてもらった議員もいた。
 日本世論調査会が昨年11~12月、18歳以上の男女3千人を対象に実施した全国郵送世論調査の結果では、旧統一教会と候補者との関係を今年4月の統一地方選で「大いに」「ある程度」考慮する人は計81%。「あまり」「全く」考慮しない人の計17%を大きく上回った。国民の強い反発を背景に、「接点議員」が厳しい選挙の洗礼を受ける可能性が示唆されていたのだ。

 

 ▽22府県では全員が当選
 次に、接点を認めた議員が今回の統一地方選でどうなったのか検証してみる。
 47都道府県議会のうち今回、統一地方選で選挙があったのは41道府県。岩手、宮城、福島、茨城、東京、沖縄の6都県議会は対象外。このため接点を認めた議員334人中、統一地方選の対象となったのは288人だった。
 288人のうち、23人は引退などにより立候補しなかった。また、大分にはアンケートに接点を認めた議員が一人もいなかった。つまり、「接点あり」で立候補したのは40道府県の265人だ。
 このうち当選したのは40道府県の240人。立候補者の90・6%に上る。接点を認めた立候補者が1人だったケースも含め、神奈川、京都など22府県では全員が当選した。
 所属政党別(アンケート回答時)に整理するとどうなるか。自民党は215人の立候補者のうち当選者は196人、落選者は19人。91・2%が旧統一教会側と接点がありながら当選していた。
 他の政党では立憲民主党が6人、日本維新の会(政治団体・大阪維新の会を含む)7人、公明党9人、その他1人、無所属21人が、接点があってもそれぞれ当選した。

参院予算委で答弁する岸田首相=3月

 ▽落選を減らせた要因は…「脱教団アピール」と「なり手不足」
 ではなぜ自民党は接点議員の落選者を19人にとどめることができたのか。考えられる要因は大きく分けて2つある。
 第1は自民党による「脱教団」のアピール効果だ。自民党は昨年10月、ガバナンス・コード(統治原則)と呼ばれる行動指針を改定、教団側とは今後関係を持たないとの方針を打ち出した。党の都道府県連には関係遮断を徹底するように通知。岸田文雄首相(自民党総裁)は今年3月24日の参院予算委員会で「統一地方選が行われる41の地方組織で対応している」と強調した。
 さらに国会では昨年12月、与野党が悪質な寄付勧誘規制を柱とした不当寄付勧誘防止法を成立させ、旧統一教会に厳しい姿勢を打ち出して見せた。
 

 もう一つは、深刻化している議員の「なり手不足」。これも要因になった側面は否めない。接点を認めた立候補者の中には、無投票で当選した人が63人もいた。当選者240人の26・3%に当たり、63人のうち58人は自民党所属だった。自民党当選者196人のうち29・6%が無投票で当選した計算になる。

 無投票当選は、定数を超える候補者が集まらない選挙区で発生する。例えば、定数5の選挙区に5人しか立候補しなければ、投票を行わず告示日の届け出締め切りと同時に全員の当選が決まる。
 つまり当選者の26・3%は、旧統一教会側との関わりについて有権者の「審判」を一切受けなかった。岐阜県では接点を認めた議員が18人立候補したが、9人は無投票だった。
 「堅調な戦いにより党の地方基盤を維持、強化することができた」。自民党の茂木敏充幹事長は4月10日の記者会見でホッとした表情を浮かべつつ、こう振り返った。旧統一教会問題の影響を最小限に抑えられたという思いがあったのかもしれない。

選挙投票のイメージ(記事内容とは無関係です)

 ▽得票数は接点ない候補者の3倍も減っていた
 ただ前回2019年と今回の統一地方選の得票を比較してみると、旧統一教会問題が「全く影響しなかった」とは言い難い実態が浮かび上がってくる。
 接点を認めた自民党候補が獲得した票は、41道府県議選に出馬した全候補者の票に比べ、3倍以上も減っていたからだ。
 自民党の候補者215人のうち、前回と得票が比べられるのは132人。前回か今回どちらか1回でも無投票で当選した人などは除外した。

 132人のうち101人が得票を減らし、31人が増やした。得票総数は前回約168万3000票、今回は約149万8000票。約18万5000票の減少だ。1人当たりの減り幅は約1400票となる。
 約1400票の減少は、41道府県議選全体における平均の3倍以上だ。総務省によると、今回の投票者数は前回より99万3531人少なかった。従って、41道府県議選で選挙戦に臨んだ立候補者2574人の平均得票の減り幅は386票となる。投票者数の減少以上に自民党の接点あり候補者は何かしらの影響を受けたと言えそうだ。

 

岩井奉信・日大名誉教授

 ▽批判票は形になっていたが、「無投票に助けられた」
 選挙戦で実際に「逆風」を感じた候補者も少なくない。自民党から熊本県議選に出馬した岩下栄一氏は8回目の当選を決めたが、前回からは約7000票減らした。「旧統一教会問題はかなり影響があった。(批判)票が形となってしまった」と困惑した表情を見せる。落選したある自民党候補は恨み節を口にした。「教団と関係があるのにアンケートに『ない』と答えて知らぬ存ぜぬの人もいる。正直者がばかを見る」
 栃木県議選で14回目の当選を果たした自民党の板橋一好氏は「逆風だったとは思わない」と旧統一教会問題の影響を否定してみせた。それでも、得票は前回から約2800票少ない7674票。最下位当選となった。次点で落選した候補とは311票差というまさに薄氷の勝利だった。板橋氏は共同通信のアンケートへの回答を拒否したものの、旧統一教会の関連団体代表を務めていたことが取材で判明している。
 今回の統一地方選の選挙結果を専門家はどう見ているのか。
 日本大の岩井奉信名誉教授(政治学)は「旧統一教会問題は選挙に爆発的な影響は及ぼさなかったものの、自民党が苦戦を強いられた」と指摘する。旧統一教会の高額寄付を巡る問題や、自民党との関係に批判的な一部支持層が離れたと分析し、警鐘を鳴らした。「立民などの支持が広がらず、強い地盤を持つ自民候補らが持ちこたえた。無投票当選の多さに助けられた面もある。岸田政権や自民党が今後、教団に毅然とした対応を取り続けることができなければ、党内の選挙が弱い人ほど影響を受けるのではないか」

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