北但大震災、リアルな記録映画発見 温泉街焼け跡や避難民の惨状…長尺で鮮明 発生100年へ史料価値高く

円山川沿岸に身を寄せた避難者

 1925(大正14)年5月23日に発生した北但大震災の記録映画が新たに見つかった。兵庫県豊岡市が同様の動画をユーチューブで公開しているが、河畔の避難民や救護本部の様子など知られていない内容を含む長尺版。画質もより鮮明で、字幕から製作会社も明らかになった。震災は再来年で発生から100年。節目に向けて活用が期待される。(田中真治)

 「(第一報)但馬地方大地震実況」と題された35ミリフィルムで約12分。神戸映画資料館(神戸市長田区)の安井喜雄館長(74)が、古物市場で入手した。冒頭のメインタイトルは、大阪にあった「藤谷教育映画製作所」の撮影と明記する。

 豊岡市の公開動画(約6分30秒)は、今回見つかった記録映画と中身は重なる一方で編集が異なっており、メインタイトルも欠落している。市によると、元のフィルムは保存されておらず、出所は不明だという。丹波篠山市の動画データベースにも同じ素材で別編集の短縮版(約3分)があるが、収蔵経緯などは定かでない。

 映像を比較すると、「-実況」のみ収録する場面が少なからず確認できた。

 「円山川沿岸の惨状」の字幕があるパートは、持ち出された家財道具に埋まる川べりの状況を撮影。続く「逃げまどふ避難者の群れ」では、一面がれきと化し、家屋の崩れ落ちた通りを行き交う被災者を捉える。

 温泉街が壊滅した旧城崎町の一連の映像では、焼け跡に設けられた県の救護本部や町役場事務所などが、被災者支援の様子を伝えている。

 こうした歴史的な災害の記録映像は近年、ますます注目度が高まっている。

 国立映画アーカイブ(東京)は、今年で発生から100年を迎える関東大震災の特設サイトを運営。所蔵する震災関連の映画を公開するとともに、撮影場所などの情報や解説を加えて、災害に対する知識や関心を高めることに取り組む。

 北但大震災でも、大手映画会社が撮影隊を送ったことが当時の映画年鑑から確認でき、日活製作の「北但馬震災惨状」が神戸・新開地の錦座で公開されたことも新聞広告から分かる。ただ、これらの作品は国立映画アーカイブも未所蔵だ。

 今回見つかったフィルムの製作や公開の詳細は不明だが、「現代のように映像撮影が身近な時代でなく、現存するのは貴重だ」と、人と防災未来センター(神戸市中央区)震災資料専門員で、視聴覚メディアに詳しい山崎ひとみさん(41)。映像は文書や写真より情報量が多く、「新聞記事や地図などとひも付けると一層リアルに感じられ、過去の災害を知るきっかけになる」と指摘する。

 安井館長は「広く関心を持ってもらいたい」と、今秋の「神戸発掘映画祭」で上映を検討する。フィルムは4Kデジタル化済みで、山崎さんは「さまざまな視点から研究ができるようになり、共有財産としていくことが大切だ」と、今後の活用につながることを望む。

 【北但大震災】1925年5月23日午前11時9分、豊岡市北部を震源とするマグニチュード(M)6.8の地震が発生。同市域は死者420人、負傷者792人、約2540戸が全壊・全焼した。城崎温泉街では犠牲者の7割が女性で、その大半は宿で昼食の支度中に倒壊や火災に巻き込まれたとされる。

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