大田原高85キロ強歩ルポ 同行記者「真の大高生」垣間見る

雨に打たれながらも元気に歩く生徒

 19日に行われた栃木県立大田原高の伝統行事「第35回85キロ強歩」。新型コロナウイルス禍の影響から、距離を本来の85キロに戻して行うのは4年ぶりだったが、雨のため打ち切りを余儀なくされた。伝統の85キロの完歩に挑む最初で最後のチャンスを思わぬ形で阻まれた3年生からは「一度も85キロを歩けなかった」と無念の声が上がる一方、「(準備を通し)仲間との絆は強まった」と前向きに捉える声もあった。

 「ここで強歩は中止にします」。同日午後5時過ぎ、約63キロを残した矢板市郷土資料館脇の体育館で、同校の君島芳一(きみじまよしひと)校長が打ち切りを宣言すると、生徒たちには戸惑いの空気が広がった。断続的に降る雨に雷雲の接近、体が雨にぬれた状態で夜を迎えることなどの危険性を考慮した苦渋の決断だった。

 「3年間で一度も85キロを歩けなかった」。3年金子京(かねこけい)さん(17)は、ぬれた雨具の後片付けをしながら、悔しそうな表情を浮かべた。

 強歩は2020、21年度は中止、22年度は35キロで行われた。野球部の金子さんは昨年の距離に物足りなさを感じており、85キロは大きな挑戦だった。「今年はマスクの着用もなく息苦しさを感じなかった。天気の影響は仕方ないが、中途半端に終わってしまい残念だ」

 出発式で力強い応援を披露した同校応援団長の3年矢吹千陽(やぶきちはる)さん(17)も「3年生は全員、強歩にかける思いは強かった。打ち切りは悔しい」と唇をかんだ。

 応援団は20日朝、旧川西中を出発する前に演舞を披露する予定で制服や太鼓、団旗も用意していた。「コロナで応援の機会が少なかった中、今回は全校生徒を前に団旗を掲げる初めての機会になるはずだった」と悔しさをにじませた。

 当日に向け自主的に練習を重ねた生徒は多い。3年相田真吾(あいたしんご)さん(17)は、昨年の強歩で予想以上に苦労した経験から、ゴールデンウイーク中に友人8人と共に、東武宇都宮百貨店大田原店とJR那須塩原駅を往復し体を鍛えていた。携帯食や水分補給に適したドリンクなども調べ、万全の準備で臨んでいただけに「父から『完歩を目指して頑張れ』と応援されていたが、本当に残念」と苦い表情を浮かべながらも、「ここまで仲間と協力する機会はほかになかった。絆は強まった」と前を向いていた。

 完歩を目指した挑戦は悪天候により阻まれた。ただ、スタートから同行した記者にとって、寒さや足の痛みに耐えながら、雨の中を一歩一歩進んでいく姿に、どんな困難も乗り越えていける「真の大高生」の力を見た気がした。

強歩の打ち切りが決定し肩を落とす生徒
強歩の打ち切りが決定し肩を落とす生徒

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