朱の器 広島サミット夕食会でG7首脳もてなし 益子で修行の吉野さん制作

G7広島サミットの夕食会で使われた吉野さんの器(吉野さん提供

 19~21日に広島市で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)初日のワーキング・ディナーの際、益子町で8年間修業した同市西区南観音3丁目、陶芸家吉野瞬(よしのしゅん)さん(37)の器が使用された。会場は広島県廿日市市の宮島にある老舗旅館「岩惣(いわそう)」で、器は食卓の席を示す「位置皿」として各国首脳を出迎えた。

 吉野さんは広島市出身。2004年から益子町の老舗窯元、佐久間藤太郎(さくまとうたろう)窯で8年間修行し、広島県尾道市でアトリエを開いた。

 岩惣は160年以上続く老舗で、国内外の著名人が多数訪問。吉野さん制作の酒器が使われ、個展が開かれるなどの縁があるという。

 吉野さんはサミットの約2カ月前、岩惣からオファーを受け、夕食会用の器をコンセプトを含め一から制作した。大きさは直径25センチ、高さ3センチ。岸田文雄(きしだふみお)首相ゆかりの地・東広島市で採れる「西条土」を使い、表面は世界遺産・厳島神社の大鳥居や夜明けなどをイメージした朱色で染めた。

 中央には首脳の人数に合わせた9本の線で広島県の木「モミジ」をデザインした。「モミジの花言葉は『大切な思い出』や『美しい変化』。移りゆく世の中で平和への思いが紡がれるように」と作り上げた。

 吉野さんは「原爆から立ち上がった日本だから、世界に発信すべきものがあると思う」と話す。19日の夕食会を終え「緊張していたが、自分の作品があるテーブルを中継で見て役目を終えたと安堵(あんど)した」。今後について「益子で学んだ陶芸の礎を生かし、多くの人に見て、使ってもらい、食卓でほっとできるような作品を作りたい」と意気込んだ。

 岩惣の女将(おかみ)の岩村玉希(いわむらたまき)さん(48)は「きれいな赤で、まるで日の丸のよう。今後もお客さま用の器として使いたい」と話した。

夕食会が開かれた老舗旅館「岩惣」の前に立つ吉野さん(吉野さん提供)

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