ブームのメダカと日々成長、障害者が働く店 元ヴィッセル選手が開業「磨いたスキル社会で生かして」

手動のポンプを使って水槽の掃除をする利用者(右)=姫路市神屋町

 メダカ飼育の人気が高まる中、今年4月、兵庫県姫路市内に新たな改良メダカの専門店がオープンした。色とりどりのメダカが優雅に泳ぐ店内で働くのは、ほとんどが障害のある人たち。ブームを追い風に多くの愛好家が訪れる同店で、彼らは苦手な接客に挑戦したり、生き物を扱う難しさに悩んだりしながら、日々成長を続けている。(森下陽介)

 同市神屋町の国道に面したメダカ販売店「HIMEJI神屋めだか」。木目を基調とした落ち着いた雰囲気の店内には、大小さまざまな水槽が所狭しと並ぶ。

 運営するのは、障害者の就労継続支援A型事業所を手がける「つなげる株式会社」(同市下寺町)。利用者の多くがウェブサイトの制作やパソコンを使ったデータ入力などに取り組む中、3人がメダカ販売店で働いている。

 同店では、約20種類400匹以上を飼育。頬が淡い朱色に染まる「紅ほっぺ」や光の反射で青や緑色に輝く「ドラゴンブルー」、真っ黒な体が人気の「サタン」なども販売している。

 サッカーJリーグ1部(J1)ヴィッセル神戸の元選手で、同社社長の仲里航さん(38)は「毎月、人気の品種を仕入れるようにしています。一度だけではなく、何度も足を運んでもらえる店に成長させることが目標です」と語る。

 自宅でも趣味でメダカを飼育しているという仲里さん。A型事業所では、最低賃金以上の給料を支払う必要があるため、収益性が高く、利用者の経験の幅も広げられると見込み、メダカ販売店の開業を決めた。

 昨秋から開店準備を始め、壁紙以外の水槽や照明の設置などは同社のスタッフと利用者でこなした。記憶が苦手な利用者のために、仕事の手順を記したマニュアルも作成。先月19日に開業した。メダカを1匹100円から販売しているが、3匹セットで2万4千円という高額品も扱う。

 同店で働く3人の仕事は、水槽の清掃や餌やり、卵の回収など多岐にわたる。それぞれの障害の特性や好みなどに応じて仕事が割り振られ、時には支援員のサポートを受けながら接客にも挑戦している。

 「最初は生き物を扱うことに戸惑いがあった」と利用者の男性(30)。体調の微妙な変化を見逃すと、水槽内のメダカが全滅してしまうこともある。それだけに、水温や水質の調整、餌のやり方にも気を使わなければならない。「育てたメダカが死んでしまえば悲しいし、仕事も難しいことの連続。それでも毎日が新鮮で、すごくいい経験」と声を弾ませる。

 「利用者には得意なことにも苦手なことにも、バランス良く取り組んでもらっている。(メダカ販売店で)身に付けたスキルが社会でもきっと役立つはず」と仲里さんは力を込める。「地域の人にも働いている人にも愛される店舗にしていきたい」

 午前10時半~正午、午後1~3時。土、日曜と祝日は休み。同店TEL079.280.1230

### ■飼育しやすくブーム継続 餌も多様化

 新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要で広がった、メダカの飼育ブームが続いている。2022年に実施された飼育ペットのランキングでは、犬、猫に次ぐ第3位に入った。

 メダカは狭いスペースでも飼育できる上、比較的丈夫なため、初心者にも飼いやすいとされる。繁殖が容易なのも特徴で、品種改良を誰でも楽しめることも人気の要因となっている。

 一般社団法人ペットフード協会(東京)が昨年に実施した「全国犬猫飼育実態調査」では、飼育ペットのトップ2は犬(11.1%)と猫(9.6%)だったが、メダカが3.5%で3位だった。一方、約7割はペットを飼育していなかった。

 改良メダカは、色やヒレの形などわずかな違いで価格が大きく異り、突然変異で誕生した品種がブランド化することもある。一方、珍しい種類は高値で取引されるため、盗難事件も相次いでいる。

 ブームの広がりに合わせて、餌のニーズも多様化している。観賞魚用飼料メーカー「キョーリン」(姫路市白銀町)に聞くと、同社では幼魚用や成魚用に加え、病後用や発色を促すタイプなど約25種類もの飼料をそろえているという。

 担当者は「品種改良が重ねられ高値で取引されるメダカが増えるにつれ、よりよい餌を求める愛好家が増えてきている」と指摘。新たに飼育を始める人も増加傾向にあり、「ブームはしばらく続きそうだ」としている。(森下陽介)

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