深夜の路上で会社員刺殺、未解決のまま21年 癒えぬ喪失感、母親は「短い人生で一生分の優しさ残してくれた」 兵庫・川西

小瀬秋雄さんが何者かに刃物で刺された現場を訪れた母の盛山時枝さん=23日深夜、川西市栄根2

 兵庫県川西市栄根2の路上で2002年5月、同県伊丹市の会社員小瀬(こせ)秋雄さん=当時(30)=が何者かに刺殺された事件は未解決のまま、23日で丸21年になった。発生時刻に合わせて深夜に現場を訪れた母の盛山時枝さん(75)=伊丹市=は「30年間の短い人生で一生分の優しさを私に残してくれた。きっともうどこかで生まれ変わってるような気がする。どうかその子に巡り会わせてくれないかな」と、癒えない喪失感を口にした。(井上太郎、池田大介)

 事件は02年5月23日午後11時40分ごろに発生。夜中の着信に、時枝さんは驚いた。警察官からだった。

 「秋雄さんは白いバイクに乗っておられますか」「ちょっとあの、事故がありまして」

 愛車があるのは知っていたが色までは覚えていない。混乱した。「乗ってないですよ」と否定しつつ現場に走った。

 途中でタクシーを拾い、搬送先と知らされた病院へ向かう間に嫌な予感がした。静まり返った院内には既に秋雄さんの兄嫁が着いていた。「母さん、見ない方がいいよ…」。どうか人違いであってくれ、との希望がぷつりと絶たれた。

 秋雄さんはバイクにまたがったまま、胸から血を流した状態で発見された。心臓付近を鋭利な刃物で刺されており、間もなく死亡。現場は人通りの少ない側道で目撃情報は乏しく、付近に約40メートルにわたって血痕が残っていたが、凶器も見つかっていない。

 事件当日、秋雄さんは仕事を終えた後に友人と食事したが、その後の詳しい足取りは分かっていないという。

### ■食器洗い手伝い

 秋雄さんは3人兄弟の真ん中で、シャイだけど思いやりのある優しい子だった。「母ちゃん大変やろ。手伝うで」と食器を洗って片付けてくれた。台所に立つ時枝さんが食材の買い忘れに気付くと、すっと立ち上がってスーパーに行ってくれた。

 近所で1人暮らしをしてからも、毎朝出勤する前には母が作る弁当を取りに寄った。「おはよー母さん」「弁当できてる?」

 事件があった日の夕方は、いつものように空っぽの弁当箱をげた箱の上に置いて帰った。「今日もおいしかったわ。ありがとー」。時枝さんは室内から「はーいお疲れさん」とだけ返事をした。最後の会話になるなんて、考えもしなかった。考えられるはずがなかった。分かっているのに「顔を合わせておけば良かった」という後悔は消えない。

 直後は葬儀のこともよく覚えていないぐらい、空白のような時間を過ごした。しばらくたってから、バイク好きで親しくしていた秋雄さんの友人に頼んで、息子が生前通っていた理容室や飲食店に連れて行ってもらった。「息子のことって全部知らないじゃないですか。お友達に聞いて初めての発見もあってうれしかったな」。料理が好きで、自宅に友達を招いて鍋や天ぷらを振る舞うことがあったそうだ。仲間に囲まれ、楽しそうに語り合う姿を想像してみる。「私もごちそうになりたかったなあ」

### ■家族と友人が支え

 時枝さんは秋雄さんの月命日に必ず現場に立ち寄り、花を供える。23日も深夜に線香を供え、集まった兄弟や孫、秋雄さんの友人たち10人ほどと暗がりの中、路肩のガードレールに手を合わせた。集まっている間だけはそこに灰皿を置き、時枝さんは、秋雄さんが好きだったたばこ「ショートホープ」に火を付けた。ぱらつく雨で消えるたびに「ごめんね」と語りかけながら、新しいものにそっと替えた。

 心にあいた穴が完全に埋まることなんて今までも、これから先もきっとない。この日もここに来る前、ふと涙が頬を伝った。

 「最近私、おかしいんです」。昨年、季節の変わり目に心が不安定になるのに気付いて心療内科を受診した。「息子さんのことがね、おなかの中にあるからですよ」と医師に言われた。

 犯人には、息子の命を奪った罪を、どれだけ後悔しても足りないほどの苦しみを与えたいと思い続けてきた。年を取り、その方法は「いっそ逮捕じゃなくてもいい」と考えることさえある。「(犯人は)別に生きていればいい。私が先に死んだ時には昼夜枕元に立ち続けて狂わせてやる」。そして、そんな念力があれば、とため息をつく繰り返しだ。

 弟の小瀬望夢さん(49)=同県尼崎市=は「ずっとそばにいた。いつも優しくて穏やかな人だった」としのぶ。兄の正也さん(54)=同県宝塚市=は「悲しみが消えることはない」と空を見上げる。犯人への憎しみ。秋雄さんとのかけがえのない思い出。そのはざまで無意識に神経をすり減らしながらも、時枝さんは、家族と友人を心の支えに前を向いて生きている。

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■4年ぶりビラ配布「風化させてはいけない」 県警、情報提供呼びかけ

 県警捜査1課と川西署の捜査員らは23日午後10時半から約1時間、現場付近と阪急川西能勢口駅前に立ち、通行人らにビラ約200枚を配って情報提供を呼びかけた。コロナ禍で2020年以降は中断しており、4年ぶりの実施となった。

 県警川西署捜査本部によると、ここ10年で新たに寄せられた情報はわずか。同署の芳養孝之刑事1課長は「風化させてはいけない。ささいなことでもいいので情報を寄せていただきたい」と話している。

 情報提供は同署捜査本部TEL072.755.0110

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