イニエスタ、負傷離脱の間に…皮肉にもチーム好調、露呈した戦術とのミスマッチ「現実を受け入れた」

5月7日の横浜FC戦で途中出場したイニエスタ(中央)=ノエビアスタジアム神戸

 ボール保持重視の「バルサ化」を脱し、強度の高いプレーでJ1の首位を走る神戸に、39歳の世界的司令塔が輝ける場は用意されていなかった。イニエスタは会見で「監督の優先順位が違うところにあると感じた。その現実を、リスペクトを持って受け入れた」と包み隠さずに話した。

 神戸は当初、イニエスタの獲得によって、古巣の強豪バルセロナ(スペイン)のようなパスサッカーの浸透を目指した。

 天皇杯全日本選手権の初優勝など一定の成果は出たが、リーグ戦では成績不振のたびに監督交代を重ね、戦術が揺らぐ。今季のチームは、イニエスタが足を痛めるなどして離脱する間、豊富な運動量で前線から圧力をかける守備とショートカウンターを徹底。13節連続首位とかつてない好調を保ってきた。

 イニエスタは復帰後もリーグ戦出場は3試合にとどまり、いずれも後半途中から。神戸での引退を望んでいた本人も「ピッチでプレーしながら引退したい気持ちが強い。そういう形で引退できる場所を見つけたい」と移籍を模索し始めた。

 一方で、優勝を目指して長いシーズンを戦うにはイニエスタが必要、という見方もあった。

 20日の柏戦後、MF斉藤は「後ろと前が分断されていた」と反省し、ベンチ外だったイニエスタに言及。「彼は常に適切なポジションを取り、適切な判断ができる選手。力が必要になるときが必ず来る」。難局に際しても中盤でつなぎ、円滑に組み立てる存在なしに今後は戦わねばならない。

 6季の在籍で神戸にもたらしたものは大きかった。一緒にプレーしたいと望む有力選手が集い、天皇杯では主将として束ねた。ピッチ外でも貢献度は絶大で、イニエスタ目当ての観戦客が増加。営業収益はJリーグのクラブで初めて年間100億円を突破した。

 本人は「クラブの認知度を上げ、成長させるというゴールを達成できた」とうなずき、「これが永遠の別れではない」とも。神戸へのサポート継続を約束した。(藤村有希子)

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