兵庫のラグビー熱復活を ちびっ子全員にプレー機会、指示や怒声ダメ リーグワン神戸が独自大会を開くワケ

コベルコ神戸が企画した小学生大会。楽しそうな声が響いた=神戸市東灘区御影浜町、神鋼灘浜グラウンド

 競技人口の減少に直面するラグビー界で、リーグワン1部のコベルコ神戸スティーラーズが普及活動に力を入れている。その一つが、兵庫県内のラグビースクールから小学6年生を集めて開く大会。プレスリリースを読むと、誰もが一定時間プレーすることを求め、指導者の指示や怒声も禁じているらしい。その狙いは何か。現場をのぞいてみた。(有島弘記)

 「右が空いている」「行け!」

 試合中に響くのは、ほぼ子どもの声だけ。トライを狙う姿を、コーチや保護者は静かに見守っていた。

 大会は「神戸スティーラーズカップ2023(以下神戸カップ)」と銘打たれ、5月13日から2日間、コベルコ神戸が練習拠点とする神鋼灘浜グラウンド(神戸市東灘区)で開かれた。昨年に続き2度目。17のスクールから計20チームが参戦し、一部は5年生も入って熱戦を繰り広げた。

■記憶に残る怒声

 なぜ、この大会を始め、特殊なルールを定めたのか。2年前に神戸製鋼コベルコスティーラーズ(当時)で現役を引退後、普及担当になった長崎健太郎さん(31)に理由を聞くと、県内のスクールが置かれた環境が背景にあった。

 「小学生の大きな大会は秋の1回だけ。しかも全国につながるトーナメントで、どうしてもうまい子が中心になる。2、3分しか出られない子を見て、何とかしたいと思ったんです」

 神戸カップは優勝こそ決めるが、一発勝負のトーナメントではなく、リーグ戦で行う。今回は、どのスクールも2日間で7試合できるようにし、どの選手も1日15分以上プレーした。

 指導者らの指示を禁止したのも長崎さんのこだわりだ。自身の少年時代を「主体性を持たせてもらえなかった」と振り返り、大人たちの怒鳴り声も記憶に残る。兵庫県ラグビースクール出身で、日本代表でも長く活躍したコベルコ神戸の日和佐篤選手(36)も趣旨に賛同し、会場に顔を出した。「背の高い子、小さい子、大きな子と、いろんなキャラクターでやるのがラグビーの魅力。一人一人が考えてプレーするいい機会」と、グラウンド脇からじっと見つめた。

■W杯を追い風に

 高校生を例に挙げると、全国的にラグビー人口は減っている。鳥取県では昨秋、全国高校大会の予選にエントリーした3校のうち2校が選手の負傷などで出場できず、試合なしで代表校が決まる異例の事態に。兵庫県も例外ではなく、県スポーツ協会によると、1996年度の1288人に対し、女子にも広がった2022年度は790人と約4割も減っている。

 激しい接触プレーがラグビー離れの一因とされるが、兵庫に希望がないわけではない。

 現小学6年生は、日本代表が初の8強入りを果たした19年のワールドカップ(W杯)日本大会を見て育った世代。長崎さんによると、スクールによっては1学年60人近くいる盛況ぶりといい、だからこそ「試合をしないと楽しくない」と、独自大会の意義を語る。

 コベルコ神戸は未経験の児童も取り込もうと、市内の小学校で出前教室を開き、昨年度は15校を巡った。9月に開幕するW杯フランス大会も追い風として期待する。

 長崎さんには夢がある。「選手としてスティーラーズに帰ってきてほしい。もちろん観客としても」。好循環を生むため、ひたむきに取り組む。

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