奇術は要らない

 テレビ番組で「昭和のお笑い」の特集を見たのをきっかけに、たまに昔懐かしい笑いを見返すようになった。マギー司郎さんのマジックは楽しい。縦しまのハンカチを手のひらでキュッと丸め、開くと「こうなるのね」。横しまに変わっている▲真っすぐ延びる線路のように、縦しまはどこか「進め」の合図を連想させる。横棒、横やりというように、横しまは「止まれ」を思わせる。一瞬にして縦しまから横しまへ、またはその逆へ。そんな早変わりは、マジックにとどまらない場合もある▲突飛なようだが、首相による衆院解散の号令も「こうなるのね」のマジックとどこか似ている。解散へ「進め」と見せかけて止まっている。逆に、いきなり「進め」の号令が出る時もある▲先進7カ国(G7)サミットを「成果」に、岸田文雄首相は近くその号令を下すのでは、という見方が強まった。半面、マイナンバーカードを巡るトラブルあり、秘書官の長男の更迭ありとブレーキもかかる▲時の首相が「今なら選挙で勝てそう」と、大義もなく、何かの口実をつくって解散に踏み切った例はいくつもある。岸田首相の胸の内はどうだろう▲大義ではなく口実を考案中ならば、見せかけの奇術と言うほかない。山のような宿題に、縦横に向き合う方が先だろう。(徹)

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