<有田陶片物語>「百花の王」牡丹 中国原産、古陶磁の画題にも

牡丹文様の有田磁器(中央:1650年代、左・右:1690年代)

 陶器市が終わってひと月半がたち、有田の町はまた静寂さを取り戻した。やきもの関係のイベントとしては、次は約5カ月後の「秋の有田陶磁器まつり」。続く「雛(ひいな)のやきものまつり」、そして春の「有田陶器市」へと循環する中では、イベントのない期間としては最も長い。通年観光を目指すが、たしかに昨今の異常気象では、真夏にイベントを企画するのはさすがにリスキーに違いない。

 例年陶器市関係の話題を優先して、紹介する機会を逸していたのだが、ちょうどその頃見ごろを迎える花に牡丹(ぼたん)がある。日本人には、その直前が見ごろの桜ほどの熱狂はないが、「百花の王」ともたたえられるように、重厚でどことなく品格を漂わせる花である。

 日本では、江戸時代以来「立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹、歩く姿は百合(ゆり)の花」と形容されるが、原産地は中国で、中国名でも「牡丹」である。『枕草子』にも登場するように、すでに平安時代以前には日本でも栽培されるようになったという。

 有田の古陶磁では、菊や梅ほどではないものの、かといってめったにお目にかかれないほどの画題でもない。唐草として描かれる「牡丹唐草」の文様が最も一般的ではあるが、この「百花の王」と「百獣の王」である唐獅子との、最強の組み合わせとして描かれることもある。

 「きしきしと牡丹莟(つぼみ)をゆるめつつ」(山口青邨)。暖かい日を浴びてつぼみがほころんでくるように、コロナ禍明けの有田が、一斉に開花することを願う。

(有田町歴史民俗資料館長・村上伸之)

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