「通過型の都市で終わっている」…新幹線駅開業48年の山口県岩国市 周辺土地の大部分は駐車場に

【グラフィックレコード】通過型の都市
中央にソファがあるだけの新岩国駅のコンコース。天井の蛍光灯は切れているものもある=5月18日、山口県岩国市
新幹線「新岩国駅」に隣接する錦川清流線の「清流新岩国駅」。無人駅で、車両を改造した待合室には改称前の駅名が書かれている=5月17日、山口県岩国市

 広島駅で「のぞみ」から「こだま」に乗り換え、西へ14分乗車すると、山口県岩国市の新岩国駅に着く。市の人口は約12万7千人。約8万人の福井県越前市、約6万3千人の同県敦賀市より多い。

 広いコンコースには中央に円形のソファが二つとテレビが1台。天井の蛍光灯のいくつかは切れ、駅構内にはコンビニが1店。山口県内の新幹線駅は五つあり、新岩国の利用者数が最も少ない。2020年度は1日平均約500人で、新山口駅の9分の1。

 新岩国駅は1975年、山陽新幹線岡山―博多の開業とともに市郊外に設置された。岩国商工会議所の木村圭一専務理事(67)の記憶では、当時駅周辺には飲食店が5店舗ほどあり、ホテルもできた。現在は飲食店が1店のみで、ホテルはサービス付き高齢者住宅に変わった。駅を出て右手の古びた土産物店2階の窓には「テナント募集」のチラシが張ってあった。

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 「岩国一番の観光名所は錦帯橋」と話すのは、市観光振興課の久保美奈子さん。清流・錦川に架かる5連の木造アーチ橋は1673年の創建。22年の同市の観光入り込み客数は約177万人で、錦帯橋を訪れたのは約37万5千人に上った。

 新岩国から錦帯橋まで列車を乗り継ぐには、第三セクター錦川清流線「清流新岩国駅」を利用する。両駅をつなぐ新幹線高架下の約250メートルの歩道は細い。清流新岩国駅は無人駅で、ホームには列車の車両を活用した待合室がぽつんとあった。しばらくすると、1両編成の列車が入ってきた。

 木村専務は「ローカル線を観光列車にしようとか、JR岩国駅とのアクセスを便利にしようとか、いろいろな議論があったが、どれも尻すぼみになった」。新幹線新岩国駅から錦帯橋までの2次交通はバスとタクシーがメインだ。

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 岩国市には新幹線に頼らなくてもよいアクセスの良さがある。広島の代表的な観光名所で、世界遺産・厳島神社のある宮島(廿日市市)からJR岩国駅までは山陽本線で約20分。広島とは高速道路でも結ばれている。岩国市観光協会の三井麻衣子さんは「宮島と錦帯橋をセットで訪れる人は多い」と話す。

 アクセスがよいのは陸だけではない。岩国市には米軍基地があり、12年に基地の滑走路を利用した軍民共用の岩国錦帯橋空港が開港した。東京との往復5便、沖縄との往復1便が毎日就航。うたい文句は「宮島に一番近い空港」だ。瀬戸内海にも面し、フェリーが立ち寄れる港もある。木村専務は「岩国は陸海空からアクセスできる。新幹線は交通手段の一つ」と話す。

 懸念の声もある。複数の市関係者は「岩国の中心地にあった映画館も、ボウリング場もなくなった。アクセスはよいけど、通過型(の都市)で終わっている」と口をそろえる。

 同会議所の杉山浩司事務局長は「新幹線は地元から外に出て行くには便利。プロ野球の広島カープの試合にもすぐ行ける。駅前の土日の駐車場は結構いっぱい」。新幹線駅ができてから48年。駅周辺の土地は駐車場が大部分を占めている。

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