熱海土石流まもなく2年 雨の季節「ここまで来る…」 広島市でも不適切 “盛り土” 募る地元住民の不安

静岡県熱海市で起きた大規模土石流災害からまもなく2年…。雨量や地形のほか、「業者による不適切な盛り土」が災害の要因でした。

これを受け、全国で盛り土の総点検が行われました。その結果、広島県内では不適切な盛り土が20か所あることが確認されています。

その1つ、広島市安佐南区上安町の盛り土について、梅雨に入って不安を募らせる住民がいます。

熱海の土石流のあと、広島県内では土砂災害警戒区域の上流域など1514か所の点検をしました。その結果、無許可で工事されていたり、のり面の一部が崩落していたりする不適切な盛り土20か所が見つかり、去年3月、国に報告しています。

このうち6か所は、現地の是正措置が終わったということです。

一方、広島市安佐南区上安町にある盛り土については、いまだに何も対処されていないと付近の住民から不安の声が上がっています。

今中康昭 さん(79)です。長年、海洋土木会社で働き、定年後、ふるさとに戻りました。自宅から700メートルほどのところにある盛り土が気になり始めたのは3年ほど前、熱海市の土石流災害が発生する前だったといいます。

地元で議論になったのは、萩原町内会の防災マップ。赤い色で示された「土砂災害特別警戒区域」が県道の両側に広がるなか、今中さんが問題視している盛り土にはなんらの注意喚起も記されていません。

今中康昭さん
「ここに大きな盛り土があるんですね。でも、マップに描かれていないんですよ、ここから上のことが。実際は、これが崩れたら大変なことになるんですよ。ここをハザードマップに加えたいということで、町内会で議論があってスタートした」

安佐動物公園の南東側にあるおよそ1ヘクタールの盛り土は、今は植林されていて、上空から見ると、盛り土とはわかりにくい状態ですが、県によりますと、今から25年ほど前に造成されたということです。

下流に砂防堰堤はあるものの、これは川沿いの小規模な崩落を止めるためのもので、盛り土の土を抑える規模ではありません。

2年前の熱海市での大規模土石流により、今中さんの危機感は増したといいます。

今中康昭 さん
「熱海の問題からいうと、2キロ下流まで流れとるんですよね。熱海でいうと、ここらまで来るんですよ。家がたくさんあるんですから。700~800世帯もあるんですよ」

おととしの総点検で「不適切」とされた20か所の盛り土ー。ここもその1つでした。

広島県 農林水産局森林保全課 小笠原貞夫 治山担当監
「令和3年10月22日に広島市と連携して、現地において目視による点検を行いました。一部、小規模なのり面侵食などを確認いたしました。ごく少量なんですが、コンクリートのがれきが発見されました」

県は、その後、ほとんどの盛り土で雨の季節に備えた処置をとったとしていますが、この盛り土については処置をしていません。それどころか、正確な現状把握もできていません。

広島県 農林水産局森林保全課 小笠原貞夫 治山担当監
「総点検をしたのちに所有者と思われる方に対しまして、こののり面の復旧などについて依頼をさせていただきました」

ところが、相手からは「所有者ではない」と主張されたそうです。

小笠原貞夫 治山担当監
「当然、そこの持ち主と思っていたんですけど、これにつきましては、土地所有者につきましては特定できていません」

どういうことなのでしょうか?

盛り土の山側には産廃処分場が広がっています。施設を運営する会社によりますと、もともとあった処分場を2年前、土地とともに購入。しかし、購入したのはあくまでも処分場とその土地だけで、盛り土部分は含まれていないということです。

業者は、前の持ち主に話し合いを求めたといいます。ところが、応じてもらえない状況が続いているということです。

盛り土からの直線距離で一番近い家に住む今中さんは、ことし1月、地域住民で作る団体の代表として、県と市に盛り土の調査と対策を求める要望書を提出しています。

今中康昭 さん
「とにかく危ないことを処置してほしいということで、それを申し入れとる」

盛り土のすそから住宅のある地域まで直線距離なら1キロもありません。それでも、山の陰に隠れて見えないために危機感を持ちにくいと今中さんは言います。

今中康昭 さん
「向こうは見えんじゃないですか。盛っているところは全然、見えない。危機感がない。やっぱり雨が一番怖いですね。雨が降って、どうなるんかなというのが…」

実は今中さんの家自体は、谷筋の関係から、盛り土が崩落したとしても直接の影響はありません。それでも地域が土石流に危険にさらされていることに相当な危機感を持っています。

熱海土石流災害を受けて、ことし5月26日に施行された「盛り土規制法」は、災害から国民の生命・身体を守る観点から土地の用途や目的に関わらず、危険な盛り土などを全国一律の基準で包括的に規制するものです。

特徴としては、(1)スキマのない規制、(2)盛土等の安全性の確保、(3)責任の所在の明確化、(4)実効性のある罰則の措置ということがうたわれていますが、それを実際にどう運用するのか…。今回の盛り土について言えば、調査は県が主導して、その後の対応は広島市の所管だということです。

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