1日の4分の1を占める睡眠、もっと大切に まちの布団屋が願うこと

創業90年の「今井ふとん店」3代目の今井秀和さん=尼崎市神田中通3

■創業90年「今井ふとん店」3代目・今井秀和さん=西宮市

 今年で創業90周年を迎えた布団店の3代目。5月に大手寝具メーカー西川(東京)の「スリープマスター」(睡眠専門家)の資格を取得した。睡眠の質にこだわり、肩こりや不眠、頭痛など客の悩みに耳を傾ける。

 創業時は、阪神尼崎駅の南側、現在は国道43号に姿を変えた西本町商店街にあった。戦後、店は立ち退きで尼崎中央商店街へ移り、自身は10歳まで店の2階で暮らした。「前が見えないほどの人通りだった」という高度経済成長期からバブル崩壊、阪神・淡路大震災を経て、西本町から共に移った店は残りわずかになった。

 婚礼には高価な布団が必須だった時代は遠く過ぎ去り、量販店や通販が台頭。なじみの客も高齢化が進む中、「取引先の開拓も営業も、インターネットがなければ信用されない」とホームページを立ち上げ、寝具ごとの特長や手入れ方法などを詳細に記した。

 地元に限らず大阪や阪神間から問い合わせが寄せられるようになった。思い入れがある布団を手に「綿布団の打ち直しはできますか」という人、ひどい腰痛を抱え「少しでも改善される布団がほしい」と訴える人。「量販店で簡単に買え、何でもネットで調べられる時代だが、逆に誰に相談していいか分からなくなっているのかも」と感じた。

 例えば「肩こり解消」をうたう枕があっても、体形や寝る姿勢、ベッドか敷布団かで全く違う。経験に加え、科学的見地からも客の期待に応えられるよう勉強を重ねる。「買わなくてもいい。気軽に相談できる存在になりたい」と話す。

 睡眠は1日の4分の1を占める。それを支える寝具は、たとえ時代が移っても、人の生活と切り離せない。「ぐっすり寝るって健康に直結するんです。布団だけじゃなく、眠ること自体をもっと大切にしてほしい」。「まちの布団屋の願い」だ。54歳。(広畑千春) 【メモ】趣味は約20年前から続けるロードバイク。休日には西宮から船坂峠を越え三田までのコースなど100キロ近くを走り、長期休みにはしまなみ海道を渡ることも。「疲れてぐっすり眠るのも、翌日の筋肉痛も全部楽しい」

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