涙を流すでもなく、ぼうぜんとした様子で、敗れたエースはうずくまっていた。18メートル先の歓喜の輪とは対照的に、そこだけ時間の流れから置き去りにされたように。
社の2年連続2度目の優勝で幕を閉じた第105回全国高校野球選手権兵庫大会の決勝。明石商は、1点を追う土壇場の九回表に「お家芸」のスクイズで同点に。その裏の守り。マウンドには背番号1、横山楓真投手の姿があった。先発し、継投を挟んで七回から再びマウンドに立っていた。
気迫の投球を見せ、2死までは簡単に奪ったが、あと1死が遠かった。満塁のピンチを招き、最後はサヨナラ負けを喫した。
まだ終わりたくない-。丸まった背中から、そんな叫びが聞こえた気がした。伏しても「敗れざる者たち」の残像が、シャッターを切った後もファインダーの向こうで揺れていた。(鈴木雅之)