コロナ禍で中止されていた島の伝統行事が復活です。男たちのプライドをかけた熱き戦いが、4年ぶりに戻ってきました。
戦いの朝、続々と集まってくる島の戦士たち。コロナ禍で中止されていた大崎上島(広島・大崎上島町)の伝統レース「櫂伝馬競漕」が、4年ぶりに再開されます。
島の男たちに混じって初挑戦の高校生の姿もありました。大崎海星高校3年の 道林海斗 さん、地元・大崎上島町出身です。
大崎海星高校 3年 道林海斗 さん(大崎上島町出身)
「いや、楽しみですね。4年ぶりの開催なので気合が入っています」
熊本県出身で地元・大崎海星高校に通う 今村遙斗 さんです。
大崎海星高校 3年 今村遙斗 さん(熊本出身)
「(櫂伝馬は)この島に来ないと体験できないことだと思うので、みんなの輪に入れて…。もちろん、優勝目指してがんばります」
― 自信は?
「もちろん、めちゃくちゃあります」
地区ごとに分かれ、男のプライドをかけて戦う櫂伝馬競漕は、200年以上の歴史がある島の伝統行事。参加するのは、4チームです。手こぎの木造船で左右7人ずつが櫂を漕ぎ、4回のレースで総合得点を競います。
第1回競争
1回戦は、およそ300メートルの短距離決戦。瞬発力の勝負です。
熊本出身の今村さん(天満チーム)は、デビュー戦を勝利で飾りました。
天満チーム 船頭 藤原啓志 さん
「4年ぶりにやってね、1発目で1位取れたので、ちょっと喜びが爆発しましたね。みんなもね」
第2回競争
2回戦は、およそ2キロの長距離レース。持久力が求められます。レースは、地力のある青の郷地区チームがリードします。
大崎海星高校出身 藤居大也 さん
「苦しいですね、この距離を詰めるのは。でも、合同練習とかいつもこういう距離から追い込んで抜かしたり、2位になったりしているから、天満(チーム)の漕ぐ力なら絶対行けなくはない距離なので」
レースを解説してくれるのは、大阪の大学に通う 藤居大也 さん。この春、大崎海星高校を卒業しましたが、天満チームに参加するため、1週間前から島内の民宿に泊まり込み、練習を積んできました。
大崎海星高校出身 藤居大也 さん
「『ここだぞ、がんばれ』って、みんなで励まし合って漕ぎ合ったりしてっていう、そういう団結を感じることができるのは、ほかのスポーツとかではなかなかなくって、櫂伝馬唯一の楽しさだとぼくは思っています」
レースの方は青の郷チームが逃げ切り、長距離の戦いを制しました。 一方、赤の天満チームは疲労困ぱいです。この時点で天満チームと郷チームが7点でトップに並びました。
1位(7点) 天満・郷 3位(3点)岩白・宇浜
続く、3回戦・4回戦はおよそ1キロの中距離レースです。
天満チームのメンバー発表
「2番、帰ってきた藤居!」
レースを解説してくれた藤居さんが、第3戦のメンバーに選ばれました。デビュー戦です。
第3回競争
トップに並ぶ2チームが両サイドに分かれてスタートです。
折り返し地点でハプニング。櫂伝馬同士が接触し、優勝争いをしていた天満チーム(赤)と郷チーム(青)は、3位・4位に低迷しました。
ゴール後もお互い、怒りが収まりません。藤居さんはデビュー戦で災難に巻き込まれました。
大崎海星高校出身 藤居大也 さん
「いや。ぶつかりそうだったんですよね。その分、やっぱりよけた間は漕げなかったし、タイムロスになった。よけました、よけました。当たってないです」
第3戦を制したのは、地元出身の道林さんが所属する黄色の岩白チームでした。
大崎海星高校 3年 道林海斗 さん(大崎上島町出身)
「なんか(チャンスが)あると思うて、みんな思い切り漕いだので、がんばったかいがあった」
― 青(郷)と赤(天満)でもめていたが?
「あれだけ、みんな、櫂伝馬にかけてきて、熱い気持ちがあるので、あれはあれで1つの文化というか…、あると思うので」
一方、もめた両チームは控えのテントも隣り同士ですが、最終レースを前に会話もありません。
郷チーム 船頭 浜田慎太郎 さん
「ちょっと沖で回ってしまって、ぶつかったんですけど、ちょっと不運な感じで終わってしまったので、ゴタゴタが…」
― 天満に負けたくない?
「負けたくないですね。どうしても勝ちに行きます、はい」
天満チーム 船頭 藤原啓志 さん
「作戦は、もうここまで来たらしっかり楽しんで漕いで(前に)出るだけですよね。それ以外、もう考えんように。変なことは、さっきみたいにごちゃごちゃごちゃごちゃ変なことを考えることになりますし、とにかく(前に)出るだけです」
スタート位置のくじ引きでも目を合わせることはありません。
郷チーム(青)
「よいさー」「よいさー!」
天満チーム(赤)
「よいさー、よいさー、よいさー」「よっしゃー!」
第4回競争
どのチームにも優勝の可能性が残った大混戦。島の男のプライドをかけた最終戦です。
総合優勝 天満チーム(赤)
座り込む 大崎海星高校出身 藤居大也 さん
― どうしたの?
「足をつった」
雪辱を果たした藤居さんは、負傷していました。
大崎海星高校出身 藤居大也 さん
「(櫂を)漕いでいる間はアドレナリンが出ているから全然、気にならなかったんですけど」
大崎海星高校 3年 今村遙斗 さん(熊本出身)
「最高でした。プライドが櫂伝馬にはそれぞれのチームに絶対、強いものがあるので。やっぱり優勝、勝たないと意味がない」
今村遙斗 さんの母親
「おかえり、遙斗。おめでとう! すごいじゃん」
レース中はピリピリしていた参加者も、戦いが終わればノーサイド。4年ぶりの戦いは若い世代へと引き継がれます。
大崎海星高校 3年 道林海斗 さん(大崎上島町出身)
「もう(体力の)限界です。ことしは優勝はできなかったんですけど、来年、帰ってきて、もう1回、リベンジしたいですね」
天満チーム 船頭 藤原啓志 さん
「しんどいけど、こうやって、やっぱり勝てば、みんなで楽しめることが十分伝わったんじゃないかと思う。(若手には)来年も帰ってきてほしいですね」
◇ ◇ ◇
青山高治 キャスター
すごい迫力でした。取材した記者もびっくりするほどの熱い戦いで、大崎上島は人口7000人くらいの小さな島なんですけど、各地区ごとに争う櫂伝馬競漕で優勝すると、“1年間、大きな顔ができる” そうです。それぐらい、みなさんにとっては特別な思いのこもったものっていうことです。すごかったですね。
コメンテーター 久保木香織 さん(KAO CLINIC 院長)
でも、年齢を問わず、こう一生懸命になって夢中になれることがあるっていうのは、わたしたちも見ていて、すごく応援される感じがするので、すがすがしいですね。
中根夕希 キャスター
言い合いになってしまった天満チームの藤原さんと郷チームの浜田さんは、もともとは幼稚園からの幼なじみだそうです。それでも、ここまで言い合ったのはなかったそうです。それぐらい、気合いが入っていたと。でも、レースの後は来年の再戦を誓い合ったということでした。