「非核三原則の一方で核抑止力を肯定し 核の傘に依存。たいへん矛盾」 原爆の日の「平和記念式典」ラジオ中継 元広島市長・平岡敬さん(95)と考える

8月6日は広島・原爆の日。RCCラジオの「平和記念式典中継」に1991年から8年間、広島市の市長を務めた 平岡敬 さん(95)がゲスト出演しました。ことしの平和宣言や5月のG7広島サミットの議長・岸田文雄 総理のあいさつをどう受け止めたのか聞きました。

田村友里 アナウンサー
ことしは過去最多の111か国から参列ということなんですが、広島市は去年に続いてことしもロシアとベラルーシを式典に招待していません。また、中国は欠席ということで、核を保有する5大国のうち中国・ロシアが来ていないということなんですけれども、一方で、ロシアとベラルーシには近い将来、別の機会に広島を訪れてもらって被爆の実相に直接触れてほしいということなんですが、この招待しないという判断についてはどのように思われますか?

元広島市長 平岡敬 さん
日本政府は、ロシアに制裁を加えているわけですね。そうした日本政府の姿勢に広島市がちょっと遠慮したのかなと。わたしはですね、国の方針とは関係なしに、広島市は平和を目指しているわけですから、特に核を持っている国を全部招いて、ここで原爆の被害の実相を知っていただいて、核兵器廃絶、そして平和の構築についてあらためて、ここで覚悟を決めてもらいたいなと。そのためにはぜひ来ていただきたいなと思っているんですけどね。政府に遠慮したんじゃないかという気がしています。

田村友里 アナウンサー
広島市が発表している理由としましては、日本のロシアに対する姿勢について各国代表に誤解を生じさせてはいけないからということでした。

元広島市長 平岡敬 さん
結局、例えば戦争しているゼレンスキー大統領を招いたりしているわけですからね、こういうことを考えれば、いくら戦争をしているといっても、やっぱり核を持っている国を招いて、ともに地球の未来、人類の未来について考えてもらう、そのきっかけにしてほしいなというふうに思いますね。

田村友里 アナウンサー
式典に参列する意義というのはかなり大きいんでしょうか?

元広島市長 平岡敬 さん
大きいですね。

田村友里 アナウンサー
世界では戦争している国があるという中での平和記念式典なんですが、今回の放送にあたってSNSで事前にアンケートをとってみました。というのも今、ラジオをお聞きのみなさんがどれくらい戦争を切実に感じているのか知りたかったからです。質問は、「自分が生きている間に日本が関わる戦争が起きると思いますか?」というものです。結果は、延べ1374人にお答えいただいて、「起きる」と答えた方が63%(859人)。そして、「起きない」と答えた方が37%(515人)という結果になりました。なんと、起きるという方が過半数を占めたんです。この結果についてはどう思われますか?

元広島市長 平岡敬 さん
どうして、そう思うんですかね。わたしは、やっぱりなぜ起きるかという原因について自分で考えてもらいたいと思いますね。おそらく、さまざまな戦争をあおる言動が今ごろ、いろんなメディアとかその他にありますから、そういうものに影響されて、そういう思いになったかもわかりません。だけどね、起きると思うんだったら、それに対して自分がどう考えるかと、起こさないようにするというような行動に結びつけてほしいですよね。起きても仕方がないんだと思うんだったらね、これはやっぱり起きてしまう。なぜ、「起きる」という回答が増えたのか、このへんはいろんな情報の偏りによって、そういう意見を持っているのかなと、そういうふうに思いますね。

田村友里 アナウンサー
きょうは、どうしたら戦争をしないでいられるのかを、平和記念式典の様子をお伝えしながら平岡さんと考えていけたらなと思っております。広島市の松井市長をはじめ被爆者の代表や遺族、岸田総理ら国内外の来ひんが参列者席から原爆慰霊碑に歩み寄って花を手向けています。今、さまざまな方が花を手向けている場所は、ことし5月、G7各国の首脳やウクライナのゼレンスキー大統領もいらっしゃった場所です。平岡さん、G7のあの瞬間というのはどのようにご覧になりましたか?

元広島市長 平岡敬 さん
各国の首脳が来て、実相に触れたというのはたいへん意味があったと思います。問題は、ただ来て、花を手向けただけじゃダメなので、これから自分たちの国の核政策、あるいはいろんな政策について、この広島へ来たことがどのように影響するか、そのことをわたしたちは注目していかなきゃいけないと思うんです。自分の国の政策が、広島に来たことによって変わるのかどうか、わたしたちはそれを注目したいですね。

それとですね、「広島ビジョン」というのが出たんですが、これは核抑止力を認めているわけですね。広島の考え方と全く違うわけです。広島は、核廃絶。核兵器を全部認めないという立場に立っています。そういう中で広島に関した広島ビジョンという中で核抑止力を認めると、広島が核廃絶の旗を下ろしたんじゃないかと世界の人たちが思う可能性があるわけですね。そういう意味では、せっかく広島に集まったんですから、やはり核廃絶への道筋、あるいは世界平和の道筋を何か論議してもらいたかった。それは議長が岸田さんですからね。岸田さんが議長としてそういう方向に会議を持っていってもらいたいな、そういうふうにわたしは思いますね。

そういう意味でG7広島サミットは、集まったことは意義があるとしてもですね、中身についてはわたしはあまり評価していないですね。核抑止力を認めてしまったという。しかも、それが広島ビジョンという、広島という名前のもとに認めてしまったということは、たいへん世界の人に誤解を与える可能性があると思います。広島の原点というのは、やっぱり核廃絶と世界平和の確立ですから、とにかく戦争をやめるという、そういう方向で各国首脳が議論をしてもらいたかった。それはやっぱり議長の手腕が問われるわけですよね。結局、アメリカのなんか思惑どおりといいますか、その筋に従って会議が行われたような感じがしてしょうがないんですね。これは、日本の主体性に関わる問題ですからね。例えばバイデン大統領が日本の玄関口からじゃなくて、岩国(基地)から入ってきたと、こういうことに対して非常に不愉快な思いをわたしは持っているんです。ですから、日本の主体性っていうか、主権の問題をもう少ししっかり考えていけば、岸田さん自体も日本が独立国であるならば、G7各国をリードして、やっぱり広島の持っているような世界平和・核廃絶をやっていただきたいな。そのへんがちょっともの足りなかったというふうに思います。

田村友里 アナウンサー
SNSで事前に質問を募集したんですけど、15歳の方から「なぜ核兵器は持ってはいけないのですか? ほかの国からの攻撃の抑止力になると思う」という質問をいただいています。これについてはどう思われますか?

元広島市長 平岡敬 さん
広島・長崎の78年前のあの現実を考えたらね、決して核兵器は持ってはいけない。1つの国が持てば、相手の国も持つ。際限なく核軍拡競争が起こるわけですね。それはやっぱり避けなきゃいけない。核兵器があれば、もし、それが使われれば地球の破滅、あるいは人類の滅亡につながる。そういう想像力をぜひ働かせてほしいと思いますね。

田村友里 アナウンサー
よく日本政府は核廃絶のために橋渡しをしたいということを言うんですけれども、これはできていると思われますか?

元広島市長 平岡敬 さん
橋渡しはできていないですね。わたしはむしろ核廃絶のために岸田さんが旗振り役をやってもらいたいという具合に思いますね。橋渡しじゃなくて、核廃絶への旗振り。それをわたしも期待したいと思います。

田村友里 アナウンサー
広島市の松井一実市長の平和宣言でした。平岡さんも市長時代に平和宣言をされてきたわけですけれども、ことしの平和宣言についてはどのように感じられましたか?

元広島市長 平岡敬 さん
核抑止論が破綻しているという。これ、全く正しいですね。そうであるならば、その後に「具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないでしょうか」じゃなくて、やっぱり「必要がある。早急に始めなきゃなりません」と、そういう強い決意を示してほしかったなというふうに思います。

田村友里 アナウンサー
岸田総理のあいさつには何を期待しますか?

元広島市長 平岡敬 さん
やはり核廃絶です。本気でやってもらいたいなという気がしますね。ただ岸田さんは核抑止論を信奉しているというか、それをいちおう掲げていますよね。これはやっぱり広島の願いと違うわけですから。どういうあいさつになるかわかりませんけれども…

田村友里 アナウンサー
岸田総理のあいさつをどのように聞かれましたか?

元広島市長 平岡敬 さん
非核三原則を堅持しながらと言って、一方で核抑止力を肯定し、そして核の傘に依存しているって、たいへん矛盾していますよね、これは。もう1つは、核軍縮の機運に向けた国際社会の機運を高めることができたって言うんですが、高まっていないですね、核軍縮について。それともう1つは、核兵器条約禁止条約への言及がなかった。松井市長は核兵器禁止条約に調印しろと言っているのに、それに言及しなかったというのは、ちょっとすれ違いを感じますね。

元広島市長 平岡敬 さん
(知事の)湯崎さんが、はっきりと核抑止論を否定しているというのは、非常に力強い否定の仕方でよかったですね。ですが、一方で、やっぱり広島ビジョンについて少し言いよどんでいるところがあったというふうに感じましたね。つらいところでしょうね、知事としては。全く広島ビジョンを否定するわけにはいかんし、そして、そうは言いながら、やっぱり核抑止論を松井さん以上に厳しく批判したというのは、否定したのはよかったと思います。力強かったですね、これは。わかりやすかった。

田村友里 アナウンサー
総理のあいさつについては、もう一歩踏み込んでほしかった点などありましたか?

元広島市長 平岡敬 さん
核兵器禁止条約への言及がなかったことと、それから本当に今、戦争が新しい段階に入りつつあるとわたしは思っているんです。というのは、イギリスが劣化ウラン弾を供与し、そしてアメリカがクラスター爆弾をウクライナに供与する。これはそれぞれ非人道兵器なんですよ。こういうものを使って戦争が拡大していくと、最終的には核兵器使用までいかざるを得ないという危機感があるものですから、わたしは今、ただちに平和を広島から呼びかけるべきだと思います。戦争はやめろということですね。いい悪いは抜きにして、とりあえず戦争をやめるということが非常に大事だと思うんですね。

田村友里 アナウンサー
これもSNSで集めた質問です。20歳の方から「なぜ、日本は核兵器禁止条約に印を押さないのでしょうか」といただいています。

元広島市長 平岡敬 さん
それは他国から見れば、核の傘に守られている日本が核兵器廃絶というのはおかしいじゃないかということがありますね。日本は要するに核の傘にもとにいるという、つまりアメリカと軍事同盟を結んでいると。そのことは、核兵器禁止条約に踏み切れない原因だと思いますね。核兵器禁止条約に調印するためにはやっぱり核の傘から出なきゃいけないですね。問題は、出たらどういう国民の安全を保障することができるかということを議論しなきゃいけないですね。それを抜きにして、ただ出ろ、出ろといっても問題解決にならないわけですから。国民全体で核の傘がなければ、どうしてわれわれの安全を確保していくのかということについて議論を始めると。それをきちっと政府が先導しなければ、核兵器禁止条約にとても踏み込めないですね。

田村友里 アナウンサー
日本政府は、第1回の締約国会議にもオブザーバー参加せず、第2回に参加してほしいという意見も多いと思うんですけれども、このへんはいかがですか?

元広島市長 平岡敬 さん
やっぱり核の傘が全部、足かせになっていると思いますよ。それがなければ堂々と核兵器禁止条約に入れるわけですから。核兵器禁止条約は、世界の人々がみんな望んでいる条約なんですよ。それについて日本がですね、唯一の戦争被爆国と言っているわけですから率先して入っていくというのが一番いいと、われわれはそう思いますけどね。アメリカとの関係、それが一番足かせになっていると思います。これを話せば、いろいろ難しい問題がいっぱいあるんですよ、日本とアメリカの関係ね。

田村友里 アナウンサー
日本政府に核兵器禁止条約を批准するよう求める署名というのは、これまでに130万人分以上が提出されています。

元広島市長 平岡敬 さん
素ぼくに考えれば、核兵器禁止条約に入ろうじゃないかと、みんな、そう思うわけですね。うん、それは入らないといかん。それはやっぱり核の傘の問題が重くのしかかっているからですね。

田村友里 アナウンサー
17歳の方からこんな質問もいただいています。「戦争を止めたり、なくしたりするために今の若者に求められることは何でしょうか?」と。平岡さん、どうお考えですか?

元広島市長 平岡敬 さん
戦争だとかそういうことを、自分の問題として考えることができるかどうか。想像力を働かせなきゃいけないよね。それには歴史を学ぶ。過去の歴史を学んで、そして自分たちが、未来があるわけですから、その未来をどういう未来を作っていくかということは、やっぱり過去の歴史から学んでいかなければ、自分の未来は作れないんですね。そういう意味では、まず想像力を働かせること。歴史を学ぶこと。そして、その歴史を学ぶいろんな材料があるんです。例えば広島だったら資料館がありますし、さまざまな被爆者の手記がありますね。そういう手記をきちんと読んだら、そこで自分の想像力を働かせて、いったい戦争になったらどうなんだろうかということをきちんととらえることができると思いますね。

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