杜氏の極意、デジタル化 県工業技術センターが実証研究

全国新酒鑑評会での全国1位をたたえ開かれた祝賀会。高品質な酒を生み出す技を伝承し、酒蔵の持続的経営につなげるため、県工業技術センターは醸造技術を継承する実証研究を始めた=今年7月、山形市

 県工業技術センターがデジタル技術を活用し、県産日本酒の醸造技術を継承する実証研究を始めた。おいしい酒を安定的に造る手法の確立を目指す。酒造りは杜氏(とうじ)の経験に頼る部分が大きい中、情報通信技術(ICT)を用いて酒米の溶け方や温度、重さなどの各種醸造条件の数値化、生産管理の省力化を実現して、醸造技術の伝承、酒蔵の持続的経営につなげる狙いだ。

 少子高齢化に伴い酒蔵も人手不足が深刻で、醸造技術の継承、省力化が課題になっている。県内では同センターと酒蔵が醸造データを共有し、高品質な酒造りに生かしている下地がある。同センターはそこに研究成果を反映し、課題の解決を目指す。

 酒米は品種や栽培場所によって溶けやすさが違い、溶け方を見極めてもろみを搾る最適なタイミングを計るには長年の経験が必要とされる。同センターは新開発した酒米のアルカリ崩壊試験法を用い、幅広い酒米の溶け方を画像化、データ化することで、品質の平準化に挑戦する。

 さらに、仕込み工程では夜を徹した温度管理が必要となるが、研究では酒蔵に温度などを自動計測するIoT(モノのインターネット)センサーを設置し、数値を遠隔でモニタリング。タンクまで赴かなくても温度などの変化を把握できるようにし、生産管理の省力化につなげる。もろみの発酵特性も数値化し、杜氏の熟練の技を再現できないか検証する。

 醸造技術のデジタル化、データやノウハウの蓄積により、おいしい日本酒を安定的に醸造する技術を確立でき、杜氏の労働負荷も軽減される。今年の全国新酒鑑評会で金賞獲得数が全国1位になるなど、日本を代表する酒造技術を持つ本県酒造業界にとって、将来にわたって高品質な酒を生み出し続ける下地ができることになる。

 情報通信研究機構(NICT)の委託事業で、県内3酒蔵の協力を得る。研究期間は2023~25年度の3年間で、委託費は最大3400万円。同センターは「デジタル技術を活用し、酒蔵の味を長く守る手伝いをしたい」とした。

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