社説:「機密費で招致」 五輪の闇さらす馳発言

 利権まみれの事件に続き、また東京五輪の「闇」が浮き出た。

 石川県の馳浩知事が自民党衆院議員として五輪の招致活動に関わった際、開催地を決める権限を持つ国際オリンピック委員会(IOC)の委員に、内閣官房報償費(機密費)を使って、高価な贈答品を渡したと講演で話した。

 その後、発言を撤回し、「事実誤認もある」と謝罪したが、聞き捨てにはできない。事実なら、国民の税金でIOCのルールに反する買収を行ったことになる。

 政府は、非公開にしている機密費の使い道を明らかにする必要がある。詳細な説明を拒む馳氏と、当時の官房長官である菅義偉前首相を国会は参考人招致すべきだ。

 馳氏の講演によれば、党五輪招致推進本部長だった2013年、当時の安倍晋三首相から「必ず勝ち取れ」「カネはいくらでも出す。官房機密費もある」と指示された。100人余りのIOC委員に対し、それぞれの選手時代の写真などをまとめた1冊20万円のアルバムを作り、持参したという。

 IOCは、1998年の長野冬季五輪などの招致で委員への過剰接待や買収などが問題化したため、いかなる贈与も「行わず、受け取らず」とする倫理規定を設けた。馳発言が本当なら、これに触れる違反行為にほかならない。

 当時の馳氏のブログ日記に「東京開催の意義を伝播(でんぱ)させるロビー活動」「菅長官に活動報告」「アルバム作戦」などと書かれており、野党は発言の真実性を裏付けるとみている。馳氏もブログの内容は「事実」と認めた。

 公金である機密費を使ったという点も見過ごせない。「国の機密保持上、使途を明らかにすることが適当でない経費」とされるが、IOCの規定に反する贈答は社会的に許されない流用ではないか。

 東京五輪を巡っては、当時の招致委員会理事長による買収疑惑が報じられ、フランス司法当局が捜査しているが、真相は未解明である。大会運営では、五輪の組織委員会幹部と広告大手の電通などが絡み、大がかりな贈収賄や談合が発覚し、逮捕者が続出した。

 馳発言は、汚れたカネと腐敗の温床となった五輪の舞台裏の一端を示すものといえよう。

 IOCと日本オリンピック委員会(JOC)は、内部調査の上で説明する責務がある。

 国会で「党として具体的な対応を考えたい」と答弁した岸田文雄首相には、うみを出し切る指導力を求めたい。

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