塩田武士さん新小説「裏切りの島で」 ネット禁止の島が舞台、情報社会をユーモラスに風刺 神戸新聞で連載へ

初の新聞小説の連載を前に意気込みを語る塩田武士さん=京都市内(撮影・風斗雅博)

 塩田武士さんの連載小説「裏切りの島で」が、22日付本紙朝刊で始まる。インターネット原則禁止の島の光と影を描いたエンターテインメント作品。スピーディーな場面展開とリズム感のある文章で読者を引き付け、ユーモアたっぷりに情報社会を風刺する。連載を前にインタビューに応じた塩田さんは「こんな息苦しい世の中でも、どんな時代でも、やっぱり希望はある。希望を感じさせるラストにしたい」と語った。(小林伸哉)

 ネット環境は整っているのに、通信機器は持ち込み禁止。そんな離島「久遠島(くおんとう)」は昭和の懐かしい風情を残し、ゆったりした時が流れる。慌ただしい情報社会に疲れた人々を魅了する人気の観光地だ。

 ところが、ユーチューバー「シン」が島の映像を生配信し始めて大混乱。村役場の職員秋山楓(かえで)らは懸命に追う。シンの正体は-。島民らの本音は-。謎めいた男、松崎雄一郎が島の繁華街を巡るうち、理想郷の仮面ははがれ、ゆがんだ実態が浮かび上がっていく。

 塩田さんは元神戸新聞記者で、小説「罪の声」「存在のすべてを」などを手がけた社会派作家。「活字が一番深いところまで連れていってくれる」が信条だ。

 今回は、社会派作家の視点を持ちながら、初期作のようにエンタメ要素を濃くする。「新聞って毎日読むもの。このリズム感とエンタメは合う」と語る。

 愛すべきキャラクター、テンポよくユーモラスな会話の妙も魅力で「これまでで一番、登場人物の視点が多い小説になりそう」。ユーチューバーらへの丹念な取材を基にメディアエンタメの最前線も描く。「10~20代の方も十分楽しんでもらえるはず。新聞には、活字をしっかり読んでもらえる読者が大勢いる。だから、絶対面白いの書かなきゃ」と意気込む。

 SNS疲れやゲーム依存、偏った意見の横行…。ネット社会の弊害を描きつつも、「単なる、ネット時代以前の懐古主義のものを書きたいんじゃない」として、情報の遮断で温存される不正やハラスメントに目を向ける。

 「『虚実』の虚が大きく伸びている時代。質感がどんどんなくなっていく」。最新情報技術や将来予測も描いて「我々は一度手にした文明を手放せるのか」と読者に問う。「離島の小さな世界の話と思いきや、実はおっきな話というところが面白い。マクロとミクロのレンズが、どっかで入れ替わるんじゃないかな」

 「いい物語は現在、過去、未来にテーマが貫かれている。未来はすごく大事。未来イコール希望。読んだ後、世の中甘くないのでお砂糖いっぱいじゃなくて、苦いものは残りつつも、希望は絶対に残したい」

 小学生の娘2人を育て、創作するうち「人一人の存在の重みとすごみを、最近ますます感じるようになっている」と塩田さん。「読んだ後、下を見たり、後ろを振り返ったりするんじゃなくて、前とか上を見るような結末にしたい」と笑みを浮かべた。

【しおた・たけし】1979年尼崎市生まれ。関西学院大学社会学部卒。2002年から10年間、神戸新聞社の記者として勤務。在職中の10年「盤上のアルファ」で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、翌11年に作家デビュー。16年「罪の声」は第7回山田風太郎賞を受賞し、17年に本屋大賞3位に輝いた。19年「歪んだ波紋」で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。おもな著作は「騙し絵の牙」「デルタの羊」「朱色の化身」「存在のすべてを」など。京都市在住。

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