人気ギャグ漫画「坂本ですが?」の聖地が集中 36歳の若さで他界した作者思い出の駅周辺を訪ねて

漫画「坂本ですが?」の作者佐野菜見さんが図案を担当した卒業制作。母万里さんが「パソコンで描いていた」と振り返った=西宮市学文殿町1、学文中学校(撮影・吉田敦史)

 クールでスタイリッシュな男子高校生・坂本の学校生活を描いた人気ギャグ漫画「坂本ですが?」。鳴尾・武庫川女子大前駅(旧鳴尾駅)の周辺は、その聖地が集中していることで知られる。

 授業中に後ろから突然椅子を引かれても、空気椅子で華麗にスルー。反復横跳びは秘技「レペティションサイドステップ」へと変貌する。読者からするとギャグでしかない坂本の言動に登場人物たちはうっとり。2012~15年に連載され、つっこみ不在のシュールな笑いを次々に生み出した。

 作者の佐野菜見さんは、6歳から「坂本ですが?」の連載途中の26歳まで同駅の近くに住んでおり、周辺の公園や歩道橋、スーパーなど実在の風景を作中に数多く描いている。16年にはアニメ化もされ、駅構内では実際の写真とアニメのシーンを重ね合わせる展示などが開催された。

 「何事にも手を抜かない子で、風景を描く前に必ず写真を撮っていました」。そう懐かしむのは母親の万里さん(64)だ。佐野さんは昨年8月にがんで他界。36歳の若さだった。「鳴尾駅構内の展示を見たときは『ありがたや~』と喜んでいました」

 母校の兵庫県西宮市立学文中学校を訪ねると、佐野さんが原画を手がけた卒業制作の壁画2点が残っていた。風船を手に空を飛ぶ子どもらがユニークな構図で描かれている。色塗りを担当した同級生の松下仁美さん(36)=西宮市=は「絵が圧倒的にうまいことで有名だった。面白い言動でいつも周囲を笑わせていて、クラスの中心にいた」と回想する。佐野さんと同じ軟式テニス部にも所属。練習中に雨が降り出した時、「私これで避けれるねん」と反復横跳びをして笑わせてくれたという。

 坂本が毎朝「スライディング登校」していた高校は、母校の鳴尾高校がモデルだ。「本当に時間かっちりに門を閉める先生がいたんですよ」と笑うのは、同級生の小田木春菜さん(36)=同市。体育の授業中、佐野さんの友人がバレーでアタックする時にネットに突っ込み、眼鏡が引っかかったのを見て大喜びだったといい、「当時からシュールな笑いに反応するセンサーがあったというか、何げない日常を面白おかしくする天才でした」と振り返る。

 入院中も病室での日々を日記につづりながら、3作目の構想を練っていたという佐野さん。亡くなって2カ月後には、2作目「ミギとダリ」のアニメが始まり、昨年12月まで放送された。佐野さんは遺書でこう書き残している。「この人生は楽しい人生だったわさ 私はこれから多分 もっと自由な世界にいってきます! アバヨ!」(地道優樹)

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 2016年1月にスタートした連載「阪神駅前情話」。神戸新聞阪神総局の記者が阪神地域の各駅に降り立ち、まちに残るええ話、「へ~」な話を掘り下げます。今回は「阪神電鉄編・後編」。鳴尾・武庫川女子大前駅から芦屋駅までを紹介します。

【鳴尾・武庫川女子大前駅】 阪神電鉄の開業に合わせて1905年4月に設置。2017年に高架化され、19年に駅名を「鳴尾」から改称した。1日平均の利用者数は2万1674人(22年11月時点、阪神電鉄調べ)。

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